緊張に硬くなっている夫の表情を見た私は、”女の仕事をやるだけ”というこだわりを捨てたのです。
”男”でも”女”でも国を愛する心は一緒です。
私は”領主の妻”である”女”･･･私だけにしか出来ないことも多々あるはず。
ただの”女”にはない力を持つ”女”として、私はレヴィアス様と国を守る
”人材”となろうと決意しました。
そう･･･”男”にできないことは”女”なら出来るはずだから。

忠臣から話を聞いた私たちは、レヴィアス様の執務室に入りました。
苦悩で眉を歪ませる、レヴィアス様に私は己の決意を話そうと思い口を開きました。
どうせ止められると分かっていましたが、陰謀ということが分かれば座して死ぬ気も
ありません、それを利用して影ながら緊張に硬くなっている夫の表情を見た私は、”女の仕事をやるだけ”というこだわりを捨てたのです。
”男”でも”女”でも国を愛する心は一緒です。
私は”領主の妻”である”女”･･･私だけにしか出来ないことも多々あるはず。
ただの”女”にはない力を持つ”女”として、私はレヴィアス様と国を守る
”人材”となろうと決意しました。
そう･･･”男”にできないことは”女”なら出来るはずだから。

忠臣から話を聞いた私たちは、レヴィアス様の執務室に入りました。
苦悩で眉を歪ませる、レヴィアス様に私は己の決意を話そうと思い口を開きました。
どうせ止められると分かっていましたが、陰謀ということが分かれば座して死ぬ気も
ありません、それを利用して影ながらレヴィアス様を支えたいと思ったのです。

「レヴィアス様･･･」

「なんだ？エリス･･･」

「このご命令･･･妙だとは思えませんか？」

「妙･･･とは？」

「連合国王は清廉にして潔白なお方。しかし、臣下の言を見極める確かな目をお持ちです。
　陛下らしからぬ異例な速さでのご命令。そして、図ったかのようなあの臣下の言葉。
　･･･出来すぎているとは思われませんか？」

「ふむ･･･確かに･･･
　では、レカルティア伯の中でも一番信用の置ける者を水面下で探し出せ。
　本当に獄に繋がれていたなら、陛下の膝元に行くまでに合流できるはずだな。」

「はい。」

「真偽の程は慎重に確かめなくては仕方がないが･･･
　陛下から来たエリスの処刑命令は本物だ。
　身代わりを立てるという手もあるが･･･」

「レヴィアス様、何を仰せになるのです。
　申し上げましたでしょう、国のためなら命は惜しくないと･･･」

そう言いながら私は、近くにあったペンを紙の上に滑らせはじめました。
レヴィアス様と私だけに分かる文字で、私が思った浅智恵を少しだけレヴィアス様に
伝えたのです。
レヴィアス様も目でその文字を追いながら言い募ります。

「しかし･･･そうなれば、私は妻殺しの罪を犯すことになる。
　何より大切なお前を･･･失いたくはないのに･･･」

「レヴィアス様･･･」

レヴィアス様の本気を目の当たりにして思わず、涙がこぼれそうになりましたが、
二人だけの真実の会話を紙の上で行い続けました。
そして、慎重を期した会話が終わったとき･･･レヴィアス様から労るような口付けを
貰ったのです。
唇に残った温かさは”わかった、考えてみよう”と言ってくれているかのようでした。

「とりあえず、元老院と宰相と軍部の将軍達を召集しよう。群臣会議だ。
　そして、周辺諸国・特に陛下の直轄地からの情報を逐一受けられるよう
　手配を整えるように。」

と、部屋の回りに響きわたるような声で宣言されたのです。
この宣言が、長きに渡る戦争への出陣命令でした。
城全体が上へ下へと騒がしくなる中、レヴィアス様はてきぱきと命令をだしていきます。
そして、私たちの運命を決めるかもしれない命令を一番信用している小姓に伝えた後
レヴィアス様は会議の間へ向かっていきました。
私は、レヴィアス様のご内意を受けてそのまま後宮へ戻りました。
心はレヴィアス様の戦友であっても群臣会議に后が出ることは許されないのです。
不安でないと言えば嘘になりますが、最善の策を取るためにもここは大人しくしていようと考えました。


重い空気の中で行われた群臣会議は、案の定、私の処刑を採択致しました。
しかし、執行猶予として７日待つという破格の譲歩をもぎ取ったのです。
そのことを元老院から命令された私は、静かな気持ちで受けとめました。
準備が全て済んでいる今、後は役者がそろうのを待つだけなのだから･･･
元老院は、私が口だけでもかなりの抵抗をするだろうかと待ちかまえていたようです。

「エリス様、申し開きはございませんか？」

「私は無理に命ごいをする気はございません。ただ･･･一つだけ申し上げることは･･･
　”私はレカルティア伯と男女の仲になったことはない”ということだけでございます」

「エリス様･･･恐れ入りますが、国王命令でございます。御身を牢にて監禁させていただきます。」

「分かりました。私を案内して下さい。」

私は、両腕を差し出して服従の意を示しました。
その様子を受けた役の者が私の手を後ろ手に縛り、逃げないようロープを持ったのです。
そうして、この夜から私の城は冷たい監獄の中になりました。
･･･全てが順調に進んでいるのが分かります。陰謀も私たちの戦も･･･
ただ、ひとつの気がかりがレカルティア伯でした。
陛下の膝元を抜け出しても、あの美貌と人品です。他国の王が手放さないとすれば
私と夫の戦は負け戦になります。
私の処刑まであと７日。時間との戦いになりそうな予感がありました･･･

時は残酷なほど正確に流れていきます、一日をまんじりともせず過ごしていた私に
とって、７日間はとても早く感じられたのです。そして、処刑当日。
二日目から囚人服に着替えていた私は独房の格子窓から差し込む光で意識を覚醒しました。
顔を洗った後、自分の手で髪を梳いて死への案内人を待ちます。
いつも通りに神への祈りを捧げている最中、私を呼ぶ声が致しました。
祈りが終わっていなかった私は、声に向かって祈りが済むまで待って欲しいと応えたのです。
その答えを待っていたかのように、何かが窓から滑り込んできました。
祈りを終えた私は、滑り込んできた物を手に取り探ってみると･･･手紙だったのです。
サーディンが見つかったこと、悪くしても今日の処刑時間には来られるかもしれない
ことが書かれてありました。
数回読み返して、内容を覚えた私は手紙を粉々に破いて証拠を消したのです。
そうしている間に、廊下から足音が聞こえてきました。
多分、処刑場に案内する者達なのでしょう。
もとより死を覚悟していた私は、地獄からの使者の足音を迎える決意を固めていました。
ですが、硬い足音が目の前の扉に来た時。遠いところから急いた足音が聞こえてきたのです。

「隊長！申し上げます！！」

「なんだ？」

「レカルティア伯、ただ今ご帰還でございます！
　知らせを受けたレヴィアス様には、即刻エリス様を牢から出し、潔癖を証明するための
　決闘試合を行えとのお達しがございました！」

「おぉ、そうか！分かった。すぐ開放してレヴィアス様の元にお連れすると申し上げよ！」

「はっ！」

･･･レヴィアス様が向けた秘密の使者は間にあい、なおかつサーディンが戻ってきた･･･
この場は命を拾った私でしたが、油断は大敵です。
･･･この決闘試合。サーディンの対戦相手は何人も名乗りをあげるでしょう。
なんせ連合国国王陛下の威信のために戦うのですから･･･私の死が先送りになっただけ
かもしれないのです。
案の定、陛下の膝元から派遣された使者にいたスピアとサーベルの使い手が名乗りを
あげたのです。
急遽設けられた決闘試合。
結果は言うまでもなく、相手はサーディンの前に破れ去りました。
この試合の結果は、迅速に連合国国王の元に送られました。
処刑を忠実に実行しようとした夫。
けれど、正規の手続きで神の名に置いて無実を証明したことになった私の決闘試合は、
神が私の無実を認めて下さったという事になり、連合国国王の処刑命令は撤回されました。
そして、噂もいつの間にか消えていきました。

７日ぶりの夫との体面は、今思い返しても忘れることが出来ません。
ともすれば、二度と逢えないかもしれない覚悟で牢に行った後だったのですから･･･
レヴィアス様は、未だ囚人服に身を包んだ私を認めると、脱兎の如く駆け寄ってきて
私を抱きしめて下さいました。

「エリス･･･無事だったか･･･っ！」

「レヴィアス様･･･」

「お前が側にいなかったこの７日間、私がどれだけお前を求めていたかが分かった。」

切なそうに紡ぐお声は、少しだけ涙に震えていらっしゃいます。
力の限り抱きしめて下さる腕の力が愛しくて･･･私もつい本当の気持ちを伝えました。

「私も･･･冷たい牢の中、貴方と国を守る為に智恵を出そうとしていても
　やはり、貴方の元へ無事戻れる日のことを考えていました･･･」

「すまなかった･･･エリス。そなたは私が守ると誓ったはずなのに･･･」

余程せっぱ詰まったお気持ちだったのでしょう、涙声そのままに私に謝って下さいました。
ですが、私は謝りの言葉が欲しいのではありません。
レヴィアス様を信じ切り、彼の役に立つための人材でありたいと願った私です。
私は、抱きしめている腕の中でようやく顔を上げると、レヴィアス様に語りました。

「いいえ、そのようにご自分を責めないで下さいませ。
　私を牢に繋いだことで、貴方は陛下に対しての忠誠をお示しになったでは
　ありませんか。
　聡明な陛下だからこそ貴方の忠誠をお汲み取り下さり、命令を撤回されたのです。
　信用回復のために、貴方のお役にたてたことが私は嬉しいのですわ。」

「エリス･･･ずっと側にいてくれ･･･もう、そなたと離れたくない･･･」

「貴方･･･レヴィアス様･･･愛しています･･･お側に置いて下さい。これからもずっと･･･」


とりあえず一つの山を越した私たちでしたが、試練はこれだけではありませんでした。
この一件で臍を噛んだ人物の暗躍の元、憎むべき次の罠が張られていたのです。


〜Continue〜
レヴィアス様を支えたいと思ったのです。

「レヴィアス様･･･」

「なんだ？エリス･･･」

「このご命令･･･妙だとは思えませんか？」

「妙･･･とは？」

「連合国王は清廉にして潔白なお方。しかし、臣下の言を見極める確かな目をお持ちです。
　陛下らしからぬ異例な速さでのご命令。そして、図ったかのようなあの臣下の言葉。
　･･･出来すぎているとは思われませんか？」

「ふむ･･･確かに･･･
　では、レカルティア伯の中でも一番信用の置ける者を水面下で探し出せ。
　本当に獄に繋がれていたなら、陛下の膝元に行くまでに合流できるはずだな。」

「はい。」

「真偽の程は慎重に確かめなくては仕方がないが･･･
　陛下から来たエリスの処刑命令は本物だ。
　身代わりを立てるという手もあるが･･･」

「レヴィアス様、何を仰せになるのです。
　申し上げましたでしょう、国のためなら命は惜しくないと･･･」

そう言いながら私は、近くにあったペンを紙の上に滑らせはじめました。
レヴィアス様と私だけに分かる文字で、私が思った浅智恵を少しだけレヴィアス様に
伝えたのです。
レヴィアス様も目でその文字を追いながら言い募ります。

「しかし･･･そうなれば、私は妻殺しの罪を犯すことになる。
　何より大切なお前を･･･失いたくはないのに･･･」

「レヴィアス様･･･」

レヴィアス様の本気を目の当たりにして思わず、涙がこぼれそうになりましたが、
二人だけの真実の会話を紙の上で行い続けました。
そして、慎重を期した会話が終わったとき･･･レヴィアス様から労るような口付けを
貰ったのです。
唇に残った温かさは”わかった、考えてみよう”と言ってくれているかのようでした。

「とりあえず、元老院と宰相と軍部の将軍達を召集しよう。群臣会議だ。
　そして、周辺諸国・特に陛下の直轄地からの情報を逐一受けられるよう
　手配を整えるように。」

と、部屋の回りに響きわたるような声で宣言されたのです。
この宣言が、長きに渡る戦争への出陣命令でした。
城全体が上へ下へと騒がしくなる中、レヴィアス様はてきぱきと命令をだしていきます。
そして、私たちの運命を決めるかもしれない命令を一番信用している小姓に伝えた後
レヴィアス様は会議の間へ向かっていきました。
私は、レヴィアス様のご内意を受けてそのまま後宮へ戻りました。
心はレヴィアス様の戦友であっても群臣会議に后が出ることは許されないのです。
不安でないと言えば嘘になりますが、最善の策を取るためにもここは大人しくしていようと考えました。


重い空気の中で行われた群臣会議は、案の定、私の処刑を採択致しました。
しかし、執行猶予として７日待つという破格の譲歩をもぎ取ったのです。
そのことを元老院から命令された私は、静かな気持ちで受けとめました。
準備が全て済んでいる今、後は役者がそろうのを待つだけなのだから･･･
元老院は、私が口だけでもかなりの抵抗をするだろうかと待ちかまえていたようです。

「エリス様、申し開きはございませんか？」

「私は無理に命ごいをする気はございません。ただ･･･一つだけ申し上げることは･･･
　”私はレカルティア伯と男女の仲になったことはない”ということだけでございます」

「エリス様･･･恐れ入りますが、国王命令でございます。御身を牢にて監禁させていただきます。」

「分かりました。私を案内して下さい。」

私は、両腕を差し出して服従の意を示しました。
その様子を受けた役の者が私の手を後ろ手に縛り、逃げないようロープを持ったのです。
そうして、この夜から私の城は冷たい監獄の中になりました。
･･･全てが順調に進んでいるのが分かります。陰謀も私たちの戦も･･･
ただ、ひとつの気がかりがレカルティア伯でした。
陛下の膝元を抜け出しても、あの美貌と人品です。他国の王が手放さないとすれば
私と夫の戦は負け戦になります。
私の処刑まであと７日。時間との戦いになりそうな予感がありました･･･

時は残酷なほど正確に流れていきます、一日をまんじりともせず過ごしていた私に
とって、７日間はとても早く感じられたのです。そして、処刑当日。
二日目から囚人服に着替えていた私は独房の格子窓から差し込む光で意識を覚醒しました。
顔を洗った後、自分の手で髪を梳いて死への案内人を待ちます。
いつも通りに神への祈りを捧げている最中、私を呼ぶ声が致しました。
祈りが終わっていなかった私は、声に向かって祈りが済むまで待って欲しいと応えたのです。
その答えを待っていたかのように、何かが窓から滑り込んできました。
祈りを終えた私は、滑り込んできた物を手に取り探ってみると･･･手紙だったのです。
サーディンが見つかったこと、悪くしても今日の処刑時間には来られるかもしれない
ことが書かれてありました。
数回読み返して、内容を覚えた私は手紙を粉々に破いて証拠を消したのです。
そうしている間に、廊下から足音が聞こえてきました。
多分、処刑場に案内する者達なのでしょう。
もとより死を覚悟していた私は、地獄からの使者の足音を迎える決意を固めていました。
ですが、硬い足音が目の前の扉に来た時。遠いところから急いた足音が聞こえてきたのです。

「隊長！申し上げます！！」

「なんだ？」

「レカルティア伯、ただ今ご帰還でございます！
　知らせを受けたレヴィアス様には、即刻エリス様を牢から出し、潔癖を証明するための
　決闘試合を行えとのお達しがございました！」

「おぉ、そうか！分かった。すぐ開放してレヴィアス様の元にお連れすると申し上げよ！」

「はっ！」

･･･レヴィアス様が向けた秘密の使者は間にあい、なおかつサーディンが戻ってきた･･･
この場は命を拾った私でしたが、油断は大敵です。
･･･この決闘試合。サーディンの対戦相手は何人も名乗りをあげるでしょう。
なんせ連合国国王陛下の威信のために戦うのですから･･･私の死が先送りになっただけ
かもしれないのです。
案の定、陛下の膝元から派遣された使者にいたスピアとサーベルの使い手が名乗りを
あげたのです。
急遽設けられた決闘試合。
結果は言うまでもなく、相手はサーディンの前に破れ去りました。
この試合の結果は、迅速に連合国国王の元に送られました。
処刑を忠実に実行しようとした夫。
けれど、正規の手続きで神の名に置いて無実を証明したことになった私の決闘試合は、
神が私の無実を認めて下さったという事になり、連合国国王の処刑命令は撤回されました。
そして、噂もいつの間にか消えていきました。

７日ぶりの夫との体面は、今思い返しても忘れることが出来ません。
ともすれば、二度と逢えないかもしれない覚悟で牢に行った後だったのですから･･･
レヴィアス様は、未だ囚人服に身を包んだ私を認めると、脱兎の如く駆け寄ってきて
私を抱きしめて下さいました。

「エリス･･･無事だったか･･･っ！」

「レヴィアス様･･･」

「お前が側にいなかったこの７日間、私がどれだけお前を求めていたかが分かった。」

切なそうに紡ぐお声は、少しだけ涙に震えていらっしゃいます。
力の限り抱きしめて下さる腕の力が愛しくて･･･私もつい本当の気持ちを伝えました。

「私も･･･冷たい牢の中、貴方と国を守る為に智恵を出そうとしていても
　やはり、貴方の元へ無事戻れる日のことを考えていました･･･」

「すまなかった･･･エリス。そなたは私が守ると誓ったはずなのに･･･」

余程せっぱ詰まったお気持ちだったのでしょう、涙声そのままに私に謝って下さいました。
ですが、私は謝りの言葉が欲しいのではありません。
レヴィアス様を信じ切り、彼の役に立つための人材でありたいと願った私です。
私は、抱きしめている腕の中でようやく顔を上げると、レヴィアス様に語りました。

「いいえ、そのようにご自分を責めないで下さいませ。
　私を牢に繋いだことで、貴方は陛下に対しての忠誠をお示しになったでは
　ありませんか。
　聡明な陛下だからこそ貴方の忠誠をお汲み取り下さり、命令を撤回されたのです。
　信用回復のために、貴方のお役にたてたことが私は嬉しいのですわ。」

「エリス･･･ずっと側にいてくれ･･･もう、そなたと離れたくない･･･」

「貴方･･･レヴィアス様･･･愛しています･･･お側に置いて下さい。これからもずっと･･･」


とりあえず一つの山を越した私たちでしたが、試練はこれだけではありませんでした。
この一件で臍を噛んだ人物の暗躍の元、憎むべき次の罠が張られていたのです。

a続く