消せない男
窓からカタカタと音が聞こえました。その音を聞くと身体が凍り付いて動けなくなります。
窓が開き、あの方が忍びこんで来ました。
今夜も私を犯すつもりなのでしょう。
逃げも隠れも出来ません。
「アンジェリーク」
呼びかけられても、返事をする気など起きません。どうせ抵抗しても無駄なのです。
あくまで無視を決め込んでいたら、その態度が気に障ったとでもいうかのように、抱きかかえられてしまいました。そしてベッドに連れこまれてしまいます。
皮膚の感触だけが研ぎ澄まされて、あの方の熱が私の肌に伝わるだけで、気持ち悪さが襲ってくるのです。
後はもう悪夢が過ぎるのを待つだけです。
人形のように感情を置き去りにするしか、私に残されていないのですから。
ベッドの軋む音が、耳の奥にまで響きます。押し倒されてしまった私は、目を瞑りました。全てが夢と思うための、かすかな抵抗。
のしかかる体重。剥ぎ取られる服。荒い息遣い。シーツの海に沈み、終わるまでの嵐。
ただ、じっと耐えるだけ…
そんな私の気持ちなど、推し量るつもりなどないのでしょう。胸の谷間に顔を埋め、昨晩つけた赤い痕にさらに
痕をつけようとなさいます。
軽い痛みが身体に走り、それを堪える為、さらにきつく瞼を閉じました。
どうしてこんなことになってしまったのか。今でも考えてしまいます。
まさか、この方がこんな振る舞いに及ぶと想像できなかった私が、甘かったのでしょうか？
この方に初めて犯された日のことを思い出しました。
その日は、とても穏やかでした。
予定を全て終え手持ち無沙汰な私は、森の湖に息抜きに来ていました。
美しい湖。
全てを包み込むような暖かさ。
女王試験で疲れていた私は、大きな木の下に寄りかかり、今後のことを思案しているうちに、陽射しの柔らかさについウトウトと眠りこけてしまっていたのです。
フワフワとした感覚から、急に引き戻されて、目を空けましたら、あの方が私の横に寄り添っていました。
少し、気まずい思いをしたのも事実です。以前、この方に森の湖で告白され、お断りした経歴がありましたから。それでも、聖地に召されてからというもの、右も左もわからなかった私に親切にして下さったので、努めて笑顔を見せようとしました。
しかし、そんな私の気遣いなど気にも留めないといった感じで、あの方は思いつめた表情をなさってました。
「どうしたのですか……」
問いかけても、返事はありませんでした。
視線が痛すぎて、目をそらしますと、制服の赤いスカーフがあの方の指にまきついているのが、視界にはいったのです。
それと同時にスーッとした風が胸をくすぐったので、目をやるとブラウスのボタンが解けていて、胸の谷間が見えていました。想像以上の出来事に、声も出ません。慌てて手で胸を隠しますと、あの方は私の手を解こうと、力ずくで押しのけてしまいました。
「やめてください。いや」
かすかに、それでもやっとしぼりだした声で懇願しました。ですが、私の願いは聞き入れられず、あの方は私の口をご自分の口で塞いでしまわれたのでした。そして私の唇をわって、あの方の舌が歯をなぞるのです。まるで狂暴な蛇のように、私の口の中であの方の舌が蠢いて、息もできません。
怖くて涙が溢れました。こんな醜い心を隠されて、私に接していたのかと思うと、今までこの方を本当に優しいお方だと思っていた自分が情けなくてたまらないのでした。
助けを求めて声にならない声を叫びつづけました。ですが、誰も助けてはくれません。
そうこうするうちに、私は裸にされていたのです。
力の限り抵抗を試みましたが、男の力にかなうはずもなく、組み伏せられてしまいました。相変わらず、口は塞がれたままで、息苦しくて、辛くて涙が後からこぼれます。私はもう抵抗することも諦め、ただただこの悪夢が過ぎ去るのを祈るだけでした。
やがてあの方は私の口から胸にお顔を移されました。あの方の唇が私のに触れられて、誰からもそんな風に扱われたことのない私にとって、それはとてもおぞましい感覚でしかありません。そのうちにきつく閉じた私の両足を、軽くあの方の手が割り込んでしまわれました。悔しさと恥ずかしさで頬をさらに涙が汚していきます。女の部分にあの方はご自分のお顔を埋められ、私を貪り、啄ばみつくそうとなさいました。
「いや、やめてください」
口から洩れた言葉が、あの方をますます煽ってしまったのでしょう。舌の動きが激しく私を責め続けました。その動きが止まり、指を差し込まれてかき回された後に、あの方の分身が入ってきました。身をえぐられる痛みに、私は気が狂ったような声をあげました。またもやあの方はご自分の口で、私の口を封じてしまわれたのです。脈打つあの方の分身が嫌なくらい感じられて、痛みを伴ったそれは、私の身体をますます責め苛むのでした。
心はこれだけ嫌がっているのに、それでも身体はあの方を受け入れてしまったのでした。
切り裂かれた痛みに、その後のことは覚えてません…