聖地女官日記
私は聖地の宮殿の奥を取り仕切る女官長でございます。
宇宙を支える女王陛下の翳りが、ここ聖地の宮殿の中でさえ感じられるようになり、それとない緊張感に
包まれております。
女王補佐官のディア様が常に陛下をお気遣いあそばし、また陛下もそんなディア様を頼りになさっている
ご様子が忍ばれます。
女王陛下は勅命を出され、女王試験を執り行うことをお決めになられました。
ディア様、各守護聖様方は女王試験の為に、飛空都市に移られておしまいになり、たった一人聖地に残られた
陛下は公務に励まれておいでになられていたのです。
そんなある日、とうとう陛下は激務に耐えかねて、体調を崩されておしまいになりました。
起き上がることもままならず、お休みになられていらっしゃったところを、私は見てしまったのです。
その声は陛下の居室から洩れてまいりました。低く呻くような声でした。
私は陛下の容体に変化が起こったのかと、慌てて扉を開けようとしたところ
「アンジェリーク」
陛下のお名前を呼ぶ声が耳に入ってきたのです。
私にはそのお声の主が誰かすぐにわかってしまいました。
聖地では公然の秘密になっております。誰一人知らぬもののない、陛下がまだ女王候補だった頃、噂になって
いた闇の守護聖との恋。
私は扉を開ける手が凍り付いて、身動きすることができなくなりました。
陛下を呼ぶ声はまさしく闇の守護聖様だったからです。
このまま私が踏みこめば、双方の名誉に傷がついてしまいますので、このまま様子を窺うことに致しました。
その間にも、闇の守護聖様は陛下に対して限りなく熱いお言葉をかけてらっしゃいます。
お二方は長い間、お逢いになることさえなかったのです。私は先代女王陛下の代からこちらに仕えておりますが、
あの時のことは忘れもいたしません。
先代女王陛下は、陛下と闇の守護聖様の恋の噂を存じ上げておりました。そして、内々に陛下をお召しになり
新たなる女王として任命してしまったのです。
そして陛下にこうおっしゃいました。
「この宇宙は破滅に向かって進んでいる。そなたはこれから過酷というべき運命を歩まねばならぬ。
女としての幸せを奪う私をそなたは恨みに思うだろう。だが、ディアではこの運命に向かうことはできぬだろう。この宇宙を託せられるのはそなただけなのだ。歴代の女王から受け継ぎ、守ってきたこの宇宙をここで壊すわけにはいかぬ。受けてくれるな？ アンジェリーク」
先代女王陛下は玉座から陛下の元に歩み寄られ、そして陛下の手をお取りになられました。
「頼む、アンジェリーク」
陛下はただ黙って先代女王陛下を見つめられておりました。やがてか細いお声で、
「わかりました…」
陛下は先代女王陛下の切なる懇願に応え、女王に即位されたのでございます。即位の式典に闇の守護聖様は出席なさらなかったことも異例中の異例ずくめで、噂は語り継がれていったのです。
それと前後して、闇の守護聖様が荒れた生活をなさっているという噂が流れたのも、この頃でございました。
口さがない者たちの噂をかわすように、ひっそりと陛下は宮殿の中で過ごされ、一切誰とも関わりをもとうとは
なさいませんでした。ディア様を除いては。
先代女王陛下の選択は間違えてなかったようです。歴代のどの女王陛下よりも偉大なサクリアで全宇宙を守り
持てる力の全てを、滅び行く宇宙の為に使われました。
しかし、公には女王としての任務を全うされていても、御心の中は常に嵐が吹き荒れていたと言っても過言では
ないでしょう。恋をご自分の手で断ち切った辛さを忘れられないのか、時々、お召し物の袖とか、ご就寝あそばされている枕に涙のあとのような湿った感触が残っておりました。お側近くでお仕えする私どもには、陛下の苦しみが
手に取るようにわかるのです。
それはディア様もお気付きになられているようで、細々としたことを私どもにお命じになられます。
陛下の気が紛れるようにと、花を飾り香を焚きしめ、心をこめてお世話いたしますと、私どもの気遣いを陛下は
喜んでくださいました。その喜びを見せてくださる瞳の奥に隠された翳りを見逃すことが、私にはどうしても出来なかったのです。
陛下は宮殿の奥に閉じこもり、ただただ宇宙の安定のために心を砕かれる毎日。私はここにお仕えする前は、
女王の生活は豪奢で想像もつかないほど幸せなものと考えておりました。ですが、先代の陛下や今の陛下を
みる限り、この聖地の暮らしはそれはもう贅沢ではありますが、その分自由などありません。
まるで囚人のようなのです。
有体に申せば宇宙の為に飼い殺しにされているようなものでしょう。
全宇宙から愛される御身であったとしても、たった一人の想い人との逢瀬もできないような立場は、やはり
おいたわしいといわずにはいられないのです。
でも、長い時間も永遠ではありませんでした。女王試験が執り行われてる今、そしてまもなく試験も終わりを
告げるはずでしょう。だからこそ、闇の守護聖様はこうして忍ばれてやってきたのだと、察せられるのでした。
扉の向こうからは、いつもの闇の守護聖様とは思えないほど、情熱的なお言葉が洩れてまいります。
やがて、衣擦れの音だけが響き、私は恐る恐る扉をほんの少し開けて覗きますと、陛下がご就寝あそばされている寝台の上に、闇の守護聖様がかぶさっておいでになり、裸体を晒している陛下が目に映ったのでございます。
闇の守護聖様は陛下のお胸の谷間に顔を埋められて、こうおっしゃったのでした。
「こんなにも痩せてしまって」
「私が望んだことですわ」
陛下がお言葉を返されると、
「本当だとは思えぬ」
闇の守護聖様は陛下のお口をご自分の口で塞いでしまわれたのでした。陛下は抗う体力もないようで、ただなすがままにされておいでです。そんな中で身体を起こした闇の守護聖様はご自分の衣装を、乱雑にはぎとってしまわれると、陛下の身体をゆっくりと抱き起こしました。
陛下のお姿は、華奢でありながらも胸はふくよかでございまして、女の私からみても惚れ惚れとしてしまいます。闇の守護聖様の長い黒髪が陛下の白い裸体に巻きついてるご様子は、それはそれはうっとりとしてしまうほど、
美しいものでした。
女王としての威厳を陛下は保とうと必死でいらっしゃいましたが、歓喜の渦に溺れているのが一目でわかるほど、
頬や身体を薄紅に染めているのでした。
やがて喘ぎとも、叫びともつかない小さな声が洩れてまいります。
「どうして今になって…」
「今だからこそ…」
覗き見をしている私が、あまりのなまめかしさに顔を赤くしてしまうのでした。私は有夫の身でございますので、
男女の機微というものが、どんなものかということぐらいは存じております。それでも濃密なお二方のやりとりは、
ここが聖地の宮殿の一室であるということを忘れ去るには充分でした。
私は立ち退くことも出来ず、そのままお二方の語らいを眺めておりました。
もちろん、誰にも近づけさせないという役目を私は請けおったつもりでございますが。
「あなたをこうして抱く夢を何度見たことだろう…」
闇の守護聖様はさらなる愛撫を陛下に浴びせ、そして想いを遂げたのでした。
女王試験も無事終了し、女王陛下は新しい女王陛下となったアンジェリーク様に女王の位をお譲りになられました。そしてそれと同時に闇の守護聖様もサクリアの衰えと共に聖地を去ることが決定したのです。
この知らせを聞いたとき、私はどれほど神に感謝したかしれません。
今やっとお二人はご一緒になれるのですから。
お待たせ致しました。正直に言いましてこのお話、聖地版家政婦は見たというところでしょうか(自爆)
そうです春見は市原悦子のファンです(笑) しかし、かなりこの女官長、女王陛下のサポーターみたいですが、
それは春見が前女王陛下のこと大好きだからです。まあこんな話があるのもいいかな？とも思いまして
思いっきり趣味に突っ走ってしまいました。ごめんなさい。ユミさん（ちょっと反省。でも懲りない(笑)）