Maria
ぴちょん。
ぴちょん・・・。
天井から水の滴る音が洞窟内に響く。
その軌跡に忌々しく注がれる視線。
小さな舌打ちがひとつ。
そして決して弱くはない酒が瓶からこぽこぽと吸い込まれる音。
彼を取り巻くものはそれらの音だけだった。
「レヴィアス様！！」
突然、新たな音が加わる。
青いワンピースの衣擦れの音。
ぱたぱたと小走りする音。
少し苦しそうな息づかい。
「・・・エリス、だったか・・・何しに来た、帰れ」
レヴィアスは視線もあげずに酒をあおる。
「レヴィアス様、奥様がご心配なさっています・・・どうかお城にお戻り下さい」
「心配・・・だと？」
レヴィアスはまだ新入りのメイドを睨み付けた。
薄暗い中で微かに光る金と緑の瞳。
だがエリスは少しも畏れる様子はない。
それどころか相変わらず無垢なまでの笑顔をレヴィアスに向けていた。
「はっ、嘘をつくならもう少しましな嘘をつくもんだ。あの女が俺のことを心配するもんか」
「そんな・・・そんなことありません！！」
エリスは顔を赤くして声をあげる。
「でなきゃ心配は心配でもどうせ俺が何か問題を起こして今の贅沢な暮らしが出来なくなる心配だけだ」
もう一口、酒をあおろうとする手が制せられる。
「レヴィアス様・・・どうして、そんな悲しいことを言うんですか・・・？」
エリスの海色の瞳が大きく揺らいだ。
レヴィアスはその手を乱暴につき放つ。
「いい加減にしろ・・・おまえはあの女の飼い犬か、それとも俺の味方か？！」
怒鳴り声と共に酒瓶ががしゃんと音をたてて割れた。
土には琥珀色の液体が染み込み、あたりに酒のにおいが漂う。
しばし流れる、沈黙。
「・・・私は、レヴィアス様の味方です・・・」
エリスのその言葉にヘテロクロミアの瞳は大きく見開かれる。
エリスの手はスカートをきゅっと掴んで離さない。
「はっ・・・ははははは・・・・・・！！」
レヴィアスの笑い声が響く。
その声にエリスははっと顔を上げた。
「本当にお偉いメイドさんだよ、おまえは！こんな落ちこぼれた王子の味方だと、はっきり言ってのけるとはな！！」
「レヴィ・・・！！」
エリスの言葉は途中でレヴィアスの唇に飲み込まれた。
レヴィアスはエリスの肩を力任せに掴み、無理矢理舌を唇の間から割り込ませる。
荒々しく、貪るように深く差し込まれる舌。
苦しそうに眉をひそめるエリスの体はそのまま床に押しつけられた。
「レヴィアス・・・さ、ま・・・！！」
既に荒くなった息を吐きながら、ようやく解放された唇はレヴィアスの名を呼ぶ。
レヴィアスはエリスの手を頭の上で押さえつけ、口の端をゆがめた。
「俺の味方だというのなら・・・その証拠を見せて見ろよ」
レヴィアスは手にしていたナイフでエリスのまとっていた服の襟元に差し込み、そっとひく。
エリスはぎゅっと目をつぶり、顔を横に背けた。
体が小刻みに震えるのがはっきりと分かる。
その震えは何に対する恐怖なのか。
レヴィアスの手が、切り裂かれた服の中を動き回る。
小さな頂きをレヴィアスの手は力任せにいじり、こねくり回した。
「いやっ・・・いたあっ・・・！！」
「黙れ」
再びレヴィアスはエリスの唇を塞ぐ。
先ほどとは違う柔らかな舌の動きに、やがてエリスからは鼻に抜ける声が聞こえてきた。
そして唇は首筋を通り、胸の頂を含む。
先ほど指で痛めつけられた頂きに触れる柔らかな舌の感触がエリスの背筋にい妙な感覚を呼び起こした。
「ひやあっ！！」
エリスの体が大きくびくり、とはねる。
そしてレヴィアスの手はスカートの中の下着にたどり着いた。
少し湿った下着を無理矢理引き剥がし、その湿り気を帯びている入り口に指をあてがう。
「あっ・・・やあッ・・・！！」
エリスの半泣きの声を無視して、レヴィアスは無理矢理指を差し込み、何度も荒々しくかき回す。
エリスは何度も苦痛に声をあげたが、それでもやがて泉は潤った。
「へえ・・・女ってのはどんなにひどくいじられても濡れてくるもんだ」
レヴィアスの言葉に反応はない。
エリスの唇は小さな歯にきゅっとかみしめられ、その瞳からは音もなく滴が流れ落ちていた。
泣き叫ぶ声がやんだことにレヴィアスは何故か腹立たしくなる。
「生意気なメイドだ」
レヴィアスはその指をまるで何かをかきむしるかのように動かし、そして舌は胸の頂を嘗めるやいなや、そのたわわな胸に噛みついた。
「・・・っ・・・！！」
白い肌ににじむ赤い血液。
その赤い色がレヴィアスの脳に焼き付いた。
コイツヲモットキズツケテミタイ。
レヴィアスの頭の中でその言葉が響いたとき、彼は迷わず高ぶったものでエリスを一気に刺した。
「・・・いたっ、痛いッ・・・！！」
「やかましい」
レヴィアスは泣き叫ぶエリスの口を手で塞ぐ。
そして全くの余裕も無く、腰を動かしはじめた。
しばらくは手の中でうめき声を上げていたエリスも、小さな嬌声をあげはじめる。
熱い。
そしてまとわりついてくるエリスの体。
貪るまでに激しく動く自分をとてもとめられやしない。
そして貫くたびに己の体に満ちる温もり。
この感覚は・・・そう、これは長年求め続けていたのだろうか？
求め続けていた？落ちぶれた王子が、一体何を？
オレハコノヌクモリニトリコマレテイルノカ？
レヴィアスの思考が続いたのはそこまでだった。
「・・・・・・エリスッ！！」
そして彼は己を解き放ち、彼女は意識をとばす───。
最初に聞こえたのは水滴の音。
そして最初にぼんやりと見えたのは、薄暗い洞窟の天井だった。
エリスはゆっくりとその上体を起こす。
ふと、自分の体にマントが掛けられているのに気づく。
そしてその向こうには、背を向けて座っているレヴィアスの姿があった。
エリスの起きた気配に気づいたのであろうか、レヴィアスの体がぴくりと動く。
突然、エリスの目の前に何かが投げられた。
服を引き裂いたナイフ。
「それで俺を殺せ」
レヴィアスはまだ背を向けたままである。
「憎いだろう？俺が許せないだろう？遠慮はいらない・・・俺は決して振り向かない。だからひと思いにそれで俺を刺してくれ・・・！！」
それでよかった。
もう、これ以上この世にいる辛さは味わわなくていい。
ゆっくりとエリスが近づいてくる気配がする。
そうだ。
そのまま刺してくれ。
そして己の存在すべてを引き裂いてくれ。
オレヲココカラケシテクレ・・・。
しかし、彼の背中に触れたのは、ナイフではなくあの温もりだった。
「エリス・・・？！」
エリスの白い腕がレヴィアスの体にまわされる。
「レヴィアス様・・・私は、あなたの味方です・・・あなたの心がどうあっても・・・私は、味方です」
何故ここまでこの少女は温かいのだろう？
気がつかぬうちにレヴィアスの頬を涙がつたう。
「・・・・・・レヴィアス、と呼べ」
「・・・・・・レヴィアス」
「もう一度」
「レヴィアス」
「もう一回」
「レヴィアス・・・・・・」
何度も呼んでくれるその声にレヴィアスはゆっくりと振り返る。
そしてその瞳にうつったのは・・・見たことはない、懐かしいもの。
「・・・レヴィアス」
滴は、留まることを知らない。
「・・・俺は・・・・・・俺はっ・・・・・・！！」
「レヴィアス・・・・・・」
エリスはその胸の中にレヴィアスの頭をそっと抱え込んだ。
「泣かないで・・・もう、私はあなたのそばから離れないわ・・・可哀想なレヴィアス・・・これからは私が、いてあげるから・・・・・・」
その言葉で十分だった。
それは、彼にとっての救い。
彼の一番求めていたもの。
レヴィアスは、エリスの胸に抱かれて、そして泣き続けた。
まるで母の胸の中で泣きじゃくる幼子のように・・・・・・。
Fin
・・・すみませ〜ん！！長らくお待たせした上に、全然裏じゃねえじゃん！ってやつになっちまいました〜（ＴＴ）。
てゆーか、やっぱり私の中でのレヴィ×エリって裏と言うよりも排他的なにおいを感じてしまうのです〜。ということで今回は一応強姦ネタですが（爆）。
相変わらず分かりにくい文章で申し訳ない！一応この話は『母性』がテーマになっています。
レヴィアスは母性に飢えていた。そこにエリスが来て『味方』だと言った。レヴィアスは母親を軽蔑するが、それでも本当は彼女の愛が欲しかった・・・その愛を代わりに与えてくれたのはエリス。・・・だったのかな？（笑）
つまり、私の中でのレヴィ×エリの世界ではこうやって二人は心を通じ合えたのではないかと勝手に思っています。
うー、つまらないごたくはやめましょう。ということで王子、ほんまにすんまそんでした〜！！
'99.11.22 チサト拝
このお話がメールで来た時、私、もう画面の前で別世界に旅立ってしまったのです。特にレヴィアスが名を呼べと
言ったところに、感情移入してしまいました。男が涙を流すのを嫌うお方もいらっしゃいますが、女は男を
泣かせてこそ、女冥利につきると思うのです。だから、エリスはレヴィアスにとって永遠に成り得たのではと
感じさせていただいた、素晴らしいお話でした。ありがとうセバスチャン。王子は幸せ者です。