あまく危険な香り
「今日の……オイルは何？……ゼラニウムかしら……。」
「あたり。」
−−香りの目的は、その日によって違うの。
その日の体調や気分によって、使われているアロマオイルが決められ
ていることを知ったのは、実は最近のことなのだけど……。
『……何だか、いつも違う香りなのに、どうしてこんなに落ち着くのか
しら……』
−−先日、何気なく口にした言葉。彼は、ちょっと得意気にほほ笑んで、
説明してくれた。
『……アロマテラピーって、聞いたことある？』
私が毎日、激務にも関わらず体調を崩さないことや、すごく落ち込ん
でいたのに次の日にすっきりした気持ちになっていたことは、好きな人
に会えた“嬉しさ”だけが原因じゃなかったんだ。
−−やっぱり、この人にはかなわない。
その時私はそう思った。体調も精神状態も、この人なしでは、維持で
きない事を確信したわ……。
……誰も思わないでしょうね。宇宙を統べる女王の心と体のバランスを
保つ鍵は全て、……最年少の、緑の守護聖が握っているだなんて。
「……ゼラニウムには、気分を落ち着かせる効果があるんだ。」
−−何か、心配なことがあるんでしょ、……私より３つも年下の筈なの
に、私の心を分かっている。……無邪気な微笑み……。
『心配事の内容は、……きっとジュリアスさまやルヴァさまに相談した
方が、解決の近道だと思うよ。』……いつか彼が言ったセリフ。
そしてこんなことも言っていた。
−−ぼくは、アンジェの「女王様じゃない部分」を守るから……と。
−−それはぼくだけにしか出来ないから……とも。
嬉しかったけど、ちょっとだけくやしかった。
……私だってあなたを守りたいのに……そう思った。
そして、いつかそんな風に言ったら、この人はこんな風に答えたの。
『何言ってるの。アンジェは女王様なんだから、ぼく達の世界をいつも
守ってくれているんじゃない。結局それは、ぼく自身も守ってくれてい
るんだよ。……女王様でいる間は、もうそれだけで、十分すぎるんだか
ら。それだけで、ぼくは、決して君には適わないんだよ。』
何だか完敗だって思った。
−−いつからこの人は、こんなに大人になっちゃったんだろう。
置いていかれそうな気がした。どんどん大人になって、私には叶わな
くなっちゃう。そんな不安まで感じたりして。……そう感じる自分が子
供なのかも……とも思って。
「いつも、私のことが、何でこんなに分かるの？」
「……それは、ぼくがいつもアンジェを見てるからだよ。…アンジェの
ことばっかり気にしてて、自分の仕事がちょっとお留守になる時もある
けどね。」
「……それは、女王の立場としては、怒るべき……なのよね……。」
「でも、女王様が不調だったら、宇宙にとって大きな損害だよ？」
「…………宇宙のために、私を気にしているの？」
「まっさかー！！……そんなの言い訳だよっ！」
いつもと同じような、会話。
いつもおんなじ、いたずらな笑顔でじゃれあって。
「それに、ぼくには、女王様の体調を知る、すっごく効果的な方法を知っ
ているんだし……ぼくだけの特権だよっ！！」
「あ……ちょ……っと待……」
「ほんとに待つの？」
「……いじわる。」
☆
女王陛下の体は、女王のサクリアで満ちている。
−−触れただけで分かる、その日のサクリアの色。
悩みがあって、考えこんでいる時の色。
忙しすぎて、神経が高ぶっている時の色。
いいことがあって、嬉しい時の色。
−−そして、ぼくを欲してくれている時の色。
はっきり目で見える色じゃない。触れた時の感覚……イメージなんだ
けど……だからぼくにしか分からない。ぼくの特権。
−−女王陛下の恋人である、ぼくだけの特権なんだ。
その日の気分に合わせて、ウォーマーに垂らすオイルを決める。
「……今日もとってもきれい……大好きなアンジェ。」
「そんな……からかわないで……あっ……。」
室内のかすかな明かりの下、透き通るような白い頬に、そっと唇をあて
た。−−やわらかな金色の髪に触れるだけで、ぞくりと鳥肌がたってくる。
−−冷静になりたいのに、欲しい気持ちが押さえられない。
「からかってなんか、いないよ。本当にアンジェはきれいだもん。……ピ
ンク色のほっぺが、すごく可愛いよ。お化粧してる人よりきれいだよ。
……それに、そのつやつやした唇……おいしそう。」
「ん……まる……せ……。」
答えを待ってる余裕もなくて。……触れ合う唇をそのままむさぼる。
−−意識が遠くなっていくほどの心地よさを、キスだけで感じる。
心臓の音が早くて早くて。……セーブしなきゃ。…無理に求めたらダメ。
……彼女が、ぼくのこと欲しいと思ってくれるまで。
「……何を言っているの。……きれいなのはあなたでしょう。…その髪。
……その瞳……。女の子の私が恥ずかしくなっちゃうくらい……きれいな
んだから……あん……。」
唇を離すなり、いきなり頬を火照らせて何を言うかと思ったら。
−−君は知らなすぎるよ。君がどんなにキレイなのかってこと。
そんな言葉は聞きたくないよ。だからぼくは、プリンみたいにおいしそ
うな膨らみを、ぺろりと舐めた。……カラメルみたいに甘そうな突起が、
“かりんとう”みたいに固くなると、“女王様”の声が“女の人”の声
になる。
「マルセル……ずるい……そんなこと急にしたら……」
「急にしたら？」
「…………もう。……どうしてそんなに大人びているの？……普段はそん
な風に見えないのに、どうしてこういうことがそんなに上手なの？……私
全然かなわない……。年上なのは私な筈なのに……。」
エッチなことを、強引にすると、時々こうやってすねる。
（可愛い）
−−だんだん、わかってきた。すねるのは、女の子の恥ずかしがり方の、
ひとつの形なんだってことが。
そうしないと女の子は、すんなりこういうことができないんだよね。
「アンジェがあんまりキレイだから、ぼくの中のオトコが、早く目覚めちゃ
ったんだよ。それに……。」
「それに？」
「……アンジェ以外の女の人のことなんて、ぼくは全然わかんないよ。
ぼくは、ぼくがアンジェにしたいことや、アンジェが気持ちいいと思って
くれるんじゃないかと思うことを、ただ自然にしてるだけなんだよ。……
大好きだから、自然とそうなるだけなんだ。本当だよ。」
「………自然と？」
「そう、自然と。……こんなことも、自然とやってるの。」
「きゃ……くすぐったぁい……。」
くすくす…と耳元で笑う声。……ぼくの“欲しい”気持ちを加熱させる
色っぽい声。
「……アンジェが悪いんだよ。」
君は疲れているって頭では思っているんだけどなあ。
−−初めてこうなった時は、さすがに不安だった。
宇宙を統べる女王が、男の人と体を重ねて、愛を交わすことが、果たし
て許されるのかどうかということが。
−−でも、もしこんな事で宇宙がダメになってしまうのだったら、本当に
女王なんて脆くて弱いものだってことになっちゃうと思った。
−−絶対に負けない−−
初めて抱き合った夜、私は朦朧とした意識の中ではっきりと思った。
宇宙を愛することと、たったひとりの人のことを愛することは、同じ。
ひとりのひとを愛せなくて、宇宙のことなんか全く愛せないと思う。
そうして、私はこの人との交わりで自分を強くする術を身につけた。
身体を重ねるごとに、高まるサクリアの力−−。
それは、私自身が、自分への暗示で身につけていった不思議な力なの。
−−もちろんそれは、この人が守護聖だからこそ出来ること。
そして、豊かさを司る緑の守護聖であることも、力を増幅させる効果
があった。
もし、相手の男の人が普通の人間であったら、きっとこんな危険な事
はできなかった。−−強い女王のサクリアの力を受けとめる事ができず
に、きっと壊れてしまうでしょう。
−−そして、本当の力の源は、確かな愛。そして信頼−−
「な！……ま……まってよ！…………」
「だってうわの空なんだもん。」
背中に、腰にと伸びていた手が、突然秘所に入ってきた。
−−と、思ったら、さっと手をどけて、太もものつけねをくすぐる。
……焦らされて、身体が熱くなって、芯からどんどん泉があふれてくる
のがわかる。
「…そんな……焦らし方……意地わるい……よ。」
☆
−−真珠色の輝きが、ぼわっと白い身体を包む。
初めて、ベッドの中で、彼女の首筋にキスした時に、この柔らかい光
を見て、ぼくは、畏れと感動に、一瞬動きを止めた。
その直後に、女王候補の体調を心配したオスカーさまとランディが来
ちゃったから、そのことはしばらく忘れていたんだけれど。
−−アンジェは、ぼくの腕の中で、いつもこの光を放つ。
ベッドの中で、ふわふわな金の髪がきらきらとゆれて、小さく声を出
す時。
ぼくの愛撫に感じて、柔らかいアンジェの大事な花びらから、いっぱ
い暖かい泉が出てくる時。
−−そして。
「アンジェ。……大好きだよ。何度言っても足りないくらい。」
アンジェの手が、ぼくの高ぶっていて熱くなってるものを優しく包む。
……少しずつ、流れこんでくる、アンジェの愛情のサクリア。
−−ぼくは、ある時わかったんだ。
「女王のサクリア」の本質は、「愛情」だっていうこと。
−−慈悲深い女神さま−−無償の愛をそそぐ天使。
宇宙の女王は、みなにそんな風に例えられるけれど。
ぼくの、ぼくだけのアンジェは全然違うね。
アンジェの愛は、決してそんなに無償で慈悲深くなんかない。
普通に愛を求めて、普通に欲求もある。
ぼくの愛をエネルギーに変換して、どんどん自分を高めていってる。
もちろん、一方的なものではない。ぼくも愛をもらってる。
アンジェの女王のサクリア−−美しくて、強い−−を、ぼくはいっぱい
受け取る。そしてぼく自身のサクリアも、どんどん美しく強くなっていく
んだ。
「……ありがとう。ぼくもお返ししちゃおうかな……。」
−−開いた足の隙間から、そっと指を差し入れる−−１本−−２本とゆっ
くり入れて曲げ伸ばし。
−−きゅっとぼくの指を締め付ける、かわいい花びらの奥。やわらかいけ
ど固くて。どんどん暖かい泉が出てくる。そしてアンジェの身体もどんど
ん輝きを増す。
「は……は……あぁ……あぁ……ん……ゆるし……て。」
−−アンジェが細い腰をひねる。
（もっと感じさせたい。）
もっとアンジェをエッチな気分にさせちゃいたい。
−−花びらを舐める。小さなかわいい突起をちょこっとずつ舌先でつっつ
きながら、ぺちょぺちょっと舐めて、指も動かして。
「あ……あ……あっ……あん。……だめっ……まだだめっ。」
腰が浮いた。いきそうになって我慢できなくなってくるとする仕草。
きゅっとお尻があがるんだ。
−−ぱっと離れて、顔を見たら、頬は真っ赤で瞳がうるんでいた。
☆
「……もうダメ……わたしのなかに……来て……お願い。」
「うん。」
−−自分からねだるのは恥ずかしい。でも彼はそうさせる事が好きみたい。
私から欲しくなって求める方が、身体にもストレスにも負担がかからない
からだ……って、前にこの人は言ってたけど、たぶんそれはたてまえ。
「んっ……」
指先が、私の中でくるくる回る。優しくて、もどかしくなる感触。
「いや……そんなに焦らされたら私…おかしくなっちゃうっ…ああっ！！」
…… 一気に、入って来た。
腰を持ち上げられて、上からまっすぐ下りてきて。
くんくんって中に細かいリズムで入ってくる。
「ねえアンジェ、気もちいい？」
「ん……わかってるくせに……。」
身体がどんどんこの人を求める。ぴくぴくと彼のものを自分自身が締め
つけているのが分かる。
「……うん。まだまだ……ってことだよね？」
「え……ええっ？……あ……あっ……ああんっ！！」
入った状態のまま、さらに高く足を持ち上げられた。
さらに奥に入ってきて、……指が突起をつんつんとさわっている。
「あ……あ……あ……！」
腰が回る。
…………私の奥がかき回されて、突起が痙攣して。
もう、何にも考えることができない……。
私は自分からも、腰を動かした。
（あなたがほしい……ほしい……ほしい）
（私を求めて……お願い……愛して……）
見上げれば、大きな紫色の瞳。−−わたしをまっすぐに見つめてくれ
ている。
−−女王のことも、宇宙のことも何も関係なくなる。
それなのに、どんどん自分の身体から放出されていくサクリアのエネル
ギー。……暴発しないように……コントロールするのが精一杯。
☆
そして、女王様のサクリアが眩しいほどの輝きに満ちていく。
−−すこし、真珠色がピンク色になって、昇りつめるごとに、青みがかっ
た、パープル色になってくる。
−−言葉では表せないほどのきれいな、きれいな色。
（この輝きを、ぼくだけが守れるんだ……）
アンジェの奥。アンジェの中に入っていく。
−−ひとつになるよろこびは、愛情と信頼から来るもの。
アンジェが感じるから、ぼくも感じる。
ぼくの愛が伝わるから、アンジェも気持ち良くなれるんだ。
「……アンジェ。……ぼくもう我慢できない。気持ちよすぎるよ。」
「ん……んん……待って。……わたしも……一緒に……。」
−−光が満ちる。
柔らかい髪が、ふわりと揺れて。
「大好きよ。」
−−背中に回る手。くちびるを合わせながら−−
快楽の波に呑まれていった。
☆
「……へとへと……なのに、この爽快感って、いったい……。」
「ふふ。……心地よい疲れでしょう？……香りの効果って結構ばかにでき
ないんだよ。……お花の香りだってそうでしょう？どんなにキレイでも、
その時の気分にあったものじゃないと、不快な気持ちになったりするよね？」
「うん……そうね。…………でも逆に言えば、怖い部分もあるわよね……。
このあいだの気持ちを高揚させる香りなんて、使うタイミングによっては…
………。」
「……そうだね。……ふふ、いいこと考えた。今、使ってまたアンジェをそ
んな気持ちにさせちゃおうかなっ！」
「……ひっどーい……またからかって……私今日はもうもたないよ……。」
「だってアンジェ可愛いんだもんっ……そんな風にだらけたカッコも色っぽ
い……って……あれ……寝ちゃったの？」
（あーあ。また疲れさせちゃったぁ……これは明日の朝はすっきりするオイ
ルを用意しなくちゃなあ……そうしないと……）
「ロザリアに怒られちゃうもんね。」
本当はたまには朝寝坊したいよ。
−−遅い朝食をふたりで食べて、森に散歩に出るんだ。
鳥さんの鳴き声を聞きながら、精油にできる草を詰むんだ。
−−でも。
でも、それは、もう少しの間おあずけだね。
君が女王のサクリアがなくなって、あの光を放たなくなる時まで。
明日の朝は、リセアキュベバにしてみよう。
柑橘系の、さわやかな香りだから、きっとすっきり目覚められるね。
……じゃあ、ぼくも寝るよ。おやすみ。
ぼくのだいじな……アンジェリーク。
おしまい
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
あとがき＆いいわけ
本当に突然、あっためていたこのお話を書きたくなったんです。
「受け取ってくれる人は、きっと春見さんだけだわ」なんてとんでもなく
ずうずうしいことを考えて、無理矢理押しつけてしまいました。
お礼がわりには到底ならないですわね……ごめんなさい。
……本当は、もっと美少年と美少女があやしく美しく幼いエロさでからむ
お話が書きたかったんですが、これじゃあ普通のラブラブですよね……。
ああ……まだまだだなあ。美しい情景が浮かぶ文章が書きたい……。
いえいえ、超多忙な中、こんな素敵なマル×リモを送ってくださり、ありがとうございました♪
マルセルは美少年というよりか、美少女なのですが、考えることは結構硬派で、大人だと
思ってる私のツボをついてくださりました。っていうか、マルセルは子供じゃありませんよ。
私モードで語らせてもらえば、婉曲な表現方法をしらないだけなのです。
あまりにストレートに言い過ぎるものだから、子供と思われちゃうのかなぁ…(-_-;)
それでもって、香りにむせ返る中のＨは、かなりイヤらしく（笑）、描写もエロでありながら、
綺麗ですね。 さすが、メルユミさんです。感服しました。
でも、やはり考えることは…可愛いわ（はぁと） この辺がやさぐれてなくって、私が
マルセル好きな一因でもありますの。うう、いいわ♪
これぞ、マル×リモの珠玉というべき作品です。
なのに、どうしてマル×リモってマイナーなんでしょう。とてもとてもいいのに。
こうなれば、二人してマルリモ同盟組みますか？（真剣）