夜会の後で
ぱぁんっっ！
誰もいない廊下で響く、乾いた音。
磨き上げられた大理石の内部装飾に音が跳ね返ってエコーが掛かるような音を
たどると、タキシードを纏った身分卑しからぬ男性と、サファイアの瞳
に攻撃的な光を浮かべて、相手をにらみつけているアンジェリークが居た。
「・・・あなた、何考えてるんですか？」
顔を青ざめさせて、小鳥のように震えながらも気丈に男性をねめつけている少女を、
男は追い詰めた獲物を取り囲む快感を味わうように下卑た笑いを浮かべながら
アンジェリークに一歩近づいた、本能的に危険を感じているアンジェリークは
男に捕まらないようにと、瞳の強さをそのままに後ずさりする。
「何って・・・君。この状況ならすでに見当はついてるんだろ？」
「な・・・見当って、どういうことよ。」
「君、分からずについてきたのかい？・・・くくっ。今時珍しいくらい素直な子だな・・・」
そのままアンジェリークを壁際まで追い詰めた男は、両腕を少女の顔の横に突いて
アンジェリークを囲い込む。
己の楽しみのみ想像している男は、草食獣の息の根を止めようと舌なめずりしている
ハイエナを思わせるような雰囲気を持ちながら腕の中のアンジェリークに
言葉をかける。
「パーティ会場で一人でいれば。誘ってるようなもんだよ。・・・観念するんだね。
ここには、君の連れなんかいやしないんだ。
今は使用人もパーティーの方に行っている、ここで声をあげてもだれも助けには来ない。」
「！・・・くっ、私戻ります！」
目の前の男には、何を言っても逆効果だと本能的に悟ったアンジェリークは
ドレスの裾を持ち上げながらきびすを返して元の道を戻ろうとしたが、
「おっと！逃がさないよ。」
と言った男に強い力で引き戻されたアンジェリークは、そのまま男の腕の中に閉じ込められてしまった。
そして、そのまま顔を寄せると
「やっ・・・！」
男は、言いたいことを言い終わるとアンジェリークの唇を塞ぐ。
アンジェリークは、目の前の男との口付けに嫌悪しか感じず、腕を突っ張って抵抗する。
しかし、男は社交界の中では伊達男として浮名を流しているので、アンジェリークの
抵抗を余裕をもって難なく封印する。
こういった男の場合、抵抗されればされるほど目的遂行のために燃え上がるもので・・・
口を塞がれている為声を出せないアンジェリークは、ドレスの乱れも構わず抵抗し続ける
だが、所詮は少女の体力。必死な抵抗も男にとっては煽るものでしかなかった。
少女の抵抗を封印しつづけるうちに体力の限界が見え始めたアンジェリークを認めた
男がアンジェリークのドレスを脱がそうと手を動かした時
「ぐわっ！」
男は、いきなり訪れた腕の激痛に顔を歪めて耐えている。
先ほどの余裕はどこへいったのか。後ろの人間に腕をひねり上げられている無様な様
をアンジェリークに晒していた。
「その子から離れろや。」
「チャーリーさん！」
聞き慣れた声と独特のイントネーションを聞いたアンジェリークの顔が輝く。
男の腕をねじ上げながら凄んでいるチャーリーは、
アンジェリークを見つけて一瞬笑顔を浮かべる。
最愛の少女の無事を確かめたチャーリーは心から安心したが、アンジェリークの
乱れかけたドレスが、目の前の男の所業をチャーリーに知らせる。
一瞬にしてアンジェリークが受けたことを理解したチャーリーは、
男に対する怒りをそのままに、腕の拘束を強めていった。
「お前・・・」
静かだが有無を言わせない迫力と、内で燃え盛る怒りの炎をそのままに
チャーリーは男を締め上げていく。
「ぐ・・・っ・・・」
「よくも、アンジェに・・・このままただじゃあ返さへんからな・・・」
声を一層低くして、吐き出された言葉は彼らしくもなく物騒なものだったが、
「「アンジェリーク！」」
二人の男性の声が、３人の耳に飛び込んでくる。
声に振り返れば、巡回中だったオスカーと、アンジェリークとチャーリーの不在に気づいた
ヴィクトールが走り寄ってきていた。
「オスカー様、ヴィクトール様も！」
頼もしい存在である二人の姿を見たアンジェリークとチャーリーは破顔しながら
二人を迎えるが、アンジェリークは自分のドレスの乱れに気づくと、ドレスの胸元を掻き合せた。
「二人とも、ここに居たのか。探したんたぞ？」
「御免なさい、ヴィクトール様」
「アンジェ、謝る事はあらへん。み〜んなコイツが原因やからな。」
アンジェリークがヴィクトールに詫びを入れるのは、どこまでも優しい彼女の癖。
それを打ち消すかのように吐き出されたチャーリーの言葉は、拘束している男への侮蔑を
含んでいた。
「ん、この男が原因とはどういうことだ？」
「ああ、こいつ。たまたま一人になっていたアンジェを乱暴目的でここまで連れ出していたんや。」
「何っ！」
「・・・ほぉ、ずいぶん度胸があるものだな。陛下のお膝元でこのような事をするとは。」
「オスカー様、現行犯で捕まえましたから、引き渡しまっせ。」
チャーリーの言葉に、オスカーは、ちらりとアンジェリークを見て彼女のドレスの乱れを確認した。
きわどいところで隠されている白磁の肌は抵抗の後でうっすらとピンクに染まっている。
それだけで、チャーリーが引き渡そうとしている男の所業を掴んだオスカーは
躊躇わずにチャーリーが押さえている腕を引き受けると、痛みのつぼを押さえて完全に押さえ込んだ。
「さ、来い。恐れ多くも陛下主催のパーティで、今夜の主賓である彼女に狼藉を働くとは
無礼千万。王立派遣軍に報告した上で陛下にも報告するべきだな。」
「はい。オスカー様。派遣軍の上層部には俺からも報告を致しますので。」
「そうしてくれると助かる。頼むぞヴィクトール。」
「は。」
「あ・・・あの、オスカー様。」
「ん、なんだい？お嬢ちゃん？」
「私は何とか大丈夫ですので、あまり大事にはしないで欲しいのですけど・・・」
「まったく・・・お嬢ちゃんは優しいな・・・分かったよ。陛下には報告はしないでおく。
だが、今回は王立派遣軍が警備していたこともあるからな、元女王候補でもある君を
守るという義務もある。
内々にということで、今回のことは上層部と補佐官には報告しておくからな。」
「あ、はい・・・分かりました。」
オスカーとアンジェリークのやりとりが終わるの合図に、ヴィクトールが男を
押さえて、チャーリーがオスカーにぼそぼそと耳打ちをする。
チャーリーの言葉を聞き取ったオスカーが了解するように大きく頷いた。
「ヴィクトール、良いか？」
「はい。オスカー様。」
オスカーの促しに応えるヴィクトールは、もっていた大判のハンカチを紐代わりに
男の手首を拘束していた後だった。
手元が見えないように身体で隠すと、そのまま後ろから男の歩みを促して連行していく。
二人が見えなくなったことを確認したチャーリーは、自分の上着を脱いで
アンジェリークの華奢な肩にふわりと羽織らせる。
「すまんかったな、アンジェ・・・俺が離れたばっかりに、あんたにこないな思いを・・・」
「チャーリーさん・・・」
「さ、もう帰った方がええ。・・・アンジェも、もうここには居たくないやろ？」
「ええ・・・でも、陛下へのご挨拶が・・・」
「ああ、帰るときに守護聖様の誰かに伝えとく。心配せんでええで。」
「はい・・・」
恋人の言葉に頷いたアンジェリークの肩を抱いたチャーリーは、
そのまま彼女の労るように抱きしめて帰路についたのである。
月の光がわずかに差し込む寝室の中。
キングサイズのベッドの上で絡み合う二つの影があった。
「はぁ・・・も・・・許して・・・ぇ・・・」
「まだ・・・や。まだ・・・アンジェの肌を感じたい・・・」
「チャーリ・・・ぃあっ・・・！」
うっとりと囁きつつ、少女の懇願を退けた青年である。
少し意地悪い笑みを浮かべつつ若鮎のようにすんなりとした少女の身体を滑る青年の手は
柔らかな双丘にたどり着くと、吸い付くような質感を楽しむように揉みしだいた。
「はぁぁん・・・」
すでにチャーリーによって開花された華は、この夜、青年の激情を幾度か
華奢な身体で受け留めていた。
それ故、どんな些細な刺激にも敏感に反応する。
羞恥に勝る官能に全身に朱をあげているアンジェリークは、チャーリーから
与えられる刺激に思わず、とろけんばかりの甘い声をあげてしまう。
チャーリーは、感じやすい恋人の身体を余すところ無く征服するように利き手を
つい・・と滑らせながらアンジェリークの下肢に伸びていき・・・
「あっ・・・くっ・・！・・・だ、め・・・」
情交の後に濡れているアンジェリークの花園にチャーリーの指が伸びると、
アンジェリークはぴくりっと身体を震わせて、
自分の上に被さっているチャーリーから視線を逸らした。
胸と下肢の２カ所から同時に来る快楽のせいで、満足に言葉を紡げない・・・
だが、未だに朱をあげている身体とすでにチャーリーに奪い取られている残り少ない
体力を動員して腕を突っ張らせる恋人の様子は青年を一層煽らせるだけであった。
「・・・こんなに濡らして・・・いやらしいなぁ・・・」
くすりと喉の奥で笑いながら、花園に触れていた指をわざと彼女に見せつけるように
すると、指先を濡らしている少女の愛液が、青年の指をつたい下に降りていった。
いかにも扇情的な恋人の様子に、涙目になったアンジェリークは
「ぃ・・・ゃ・・・はずかし・・・ぃ・・・」
と言いつつ、動かない体を叱咤して身体を反転させると
そのままチャーリーの腕の中から逃れようとした。
だが、このこともチャーリーの策略だったのである。
アンジェリークの身体が完全に反転したところを見計らい、少女の腰を掴まえた
チャーリーは、そのまま四つん這いの体勢をとらせると、
有無を言わさず己の楔をアンジェリークに打ち込んでいった。
「いやぁぁぁぁぁ・・・」
嫌だという割に甘く濡れた声。それを聞いたチャーリーは、少女を貫いたまま
上体を倒して、アンジェリークの背中をぺろりと舐めながら囁いた。
「可愛い声やなぁ・・・アンジェは。・・・なぁ、ホンマは嫌とちゃうんやろ？」
囁きながらも、胸や花芽を愛撫する手を止めることはない。
一度埋め込んだ自身を数度、アンジェリークの中を大きくかき回すように動くと
今度はぎりぎりまで引き抜いた。そのまま、答えを促すような緩く浅い振動で少女を煽る。
恋人の雄を受け入れているだけでも何も考えられないアンジェリークには
青年が与えてくれる過ぎるほどの快楽は、苦痛と言っても良かった。
「あうっ･･･ん･･･あ、あぁ･･･っ･･･チャ･･･リィ･･･ひぅっ！」
じゃぷじゃぷと二人の結合部から沸き起こる淫猥な水音がチャーリーの男を刺激するのと同時に
アンジェリークの羞恥心も煽るが、少女の身体は意思とはうらはらに青年を求めるように
前後に揺れ始めていた。
「〜〜〜っ･･･ゃめっ･･･っはぁ･･･お願い･･･やめてぇ･･･」
浅く緩い律動に己の中の熱源を煽られきったアンジェリークは、
己の炎をチャーリーが鎮めてくれることを全身で望みながら、
官能に濡れた瞳から涙を流して懇願する。
（いかせて欲しい･･･）と。
チャーリーもアンジェリークの涙の意味はわかっていたが、
今夜は彼女の乱れる様をとことんまで味わうつもりである。
いつも、羞恥心を残しながらも健気に求める恋人も充分愛しいが。
自分以外の男が、アンジェリークの腰を抱き、あまつさえ唇も奪った事実が
萌黄色の青年の欲望を高まらせていたのだ。
今夜は･･･極限の官能に乱れきった彼女を見るまで、そして、
己の全てを彼女に与えきるまでは営みを続けるつもりなのだ。
･･･彼女が意識を飛ばすまで･･･
「ん･･･何を止めるんや･･･？」
揺れ動く腰の動きを無視して、ことさらゆっくりと抜差しを繰り返す青年自身は、
一度だけ根元までくわえ込ませるとそのままアンジェリークの中から抜け出そうとする。
「あっ･･･だめぇ･･･っ･･･ぁ･･･」
だが、喪失感を惜しむ少女の身体が、雄の後を追うように青年の腰に打ち付けられる。
「腰が誘ってる･･･止めてええんか･･･？」
言いざま、チャーリーはアンジェリークの腰を抱えなおすと一気に少女の最奥まで楔を打ち込む。
「ひゃぁぁぁぁぁっっん！」
「はしたないなぁ･･･こんなに締め付けて･･･止めて欲しいようには見えへんけど･･･？」
しっかりと打ち込まれた楔は
そのままの勢いでぎりぎりまで抜き出されると、もう一度勢いをつけて貫いていく。
「ひうっっ！･･･〜〜〜っ･･･あぁっっ･･･いやぁぁっ！」
アンジェリークの身体が限界までそり返る。
全身でチャーリーを受け入れているアンジェリークに目を満足させながらも
チャーリーの腕は、アンジェリークの腰を抱えたままだ。
アンジェリークをもっと感じるために、大きく腰をグラインドさせて激しく腰を打ち付けていく･･･
「ああぁぁぁっ･･･あふぅ･･･あ、あ、あぁっ･･･はくぅぅっっ･･･いや･･･いやよぉ･･･っ」
「いや･･･やないやろ･･･？」
チャーリーは自身をそのまま出し入れしつつアンジェリークを抱え込むと、
少女の耳朶に吐息をかけて囁いていく。
「ぁ･･･ふぅん･･･あぅっ････ぃ･･･っ」
「アンジェ･･･？」
「ぃ･･･いいっ･･･気持ちいいのぉ･･･っ･･･！」
官能に全身を震わせているアンジェリークは肉体の欲求に耐えられず、
叫ぶようにして身体の本音を口にした。
アーモンド型の目の端には、官能に呼び起こされた潤みが溢れて、泣いているようにも見える。
「ああ･･･俺もや･･･もっと･･･あんたを感じたい･･･」
嬉しそうに、そう言ったチャーリーは一層激しく腰を突き上げて、アンジェリークを貪っていく。
「いいっ･･･はくぅっ･･･あぁぁ･･･すごいっ･･･いぃっ･･･！」
本能のままに貪られるアンジェリークは、さんざん焦らされた後なので、
すでに羞恥心や理性が叩き壊されている。
チャーリーの動きに翻弄されている少女の濡れた唇から漏れる言葉は、
ひたすら青年を感じる物だった。
「ああぁっっ！･･･チャ･･･リ･･･すご･･･いっぱい･･･っっはぁっ･･･ぁああああぁっん！」
「せや･･･アンジェ･･･っ･･･俺を･･･感じてや･･･そろそろ･･･イクで･･･」
「あ･･･きて･･･わたし･･･も、いっしょ･･･に･･･」
チャーリーの言葉に、虚ろな瞳のアンジェリークが艶を放ちながら応える。
そして、恋人のおねだりに応えるべく、
チャーリーは最後の高みを駆け上るようにアンジェリークを蹂躙していくと
アンジェリークの内壁がチャーリー自身をより、きつく絞り上げていった。
「くぅっっ･･･アンジェ･･･っっっ！！」
「あ、あ、あっっ･･･あくうっ･･･チャーリーっっっっ･･･！！」
アンジェリークの甘美な締め付けに、チャーリーはたまらず少女の中に証を放った。
チャーリーが開放すると同時に、青年の激情を受け止めたアンジェリークは
真っ白い意識の中に吸い込まれていく。
どくどくと脈打ちながら全てを開放したチャーリーは、未だ暖かく包み込む恋人の余韻に浸るように
アンジェリークを抱きしめると、大量に吐き出された精の全てを少女の中に納めたいというかのように
微妙に腰を動かすと、大きく吐息を吐いた。
「アンジェ･･･愛してる･･･永遠に･･･」
〜Ｆｉｎ
Love collector 一周年記念にと、李 春明さんよりいただきました。 実はかなり私はチャーリーさん
好みでございまして（笑） 無理を言いました。 でも私の期待を裏切らず、それ以上の裏創作をいただき
嬉しい限りです。何がいいかって、その描写が真に迫ってます。 細かなディティール、激しさ、そして
迸る愛、さすが春明さんです。ウヒヒヒヒ〜（下品）な笑いを浮かべてますが、ですが、この創作のせいで
今、私はトロワチャーリーさん狙いなのは仕方ないでしょう。
ほんと、素晴らしい創作小説を賜り、嬉しい限りです。ありがとうございました。