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「こんにちは、執事さん」
「これはアンジェリーク様、ようこそいらっしゃいました｡
中でご主人様がお待ちです｡さ、どうぞ」
恭しくお辞儀をして、奥の部屋へと先導する、顔見知りの執事の後をついて、
アンジェリークは屋敷の中へと足を踏み入れた｡

ここは、聖地にある、炎の守護聖の私邸｡
つまり、アンジェリークの、恋人の暮らす屋敷｡

女王候補たるアンジェリークと、炎の守護聖オスカーが恋仲であることは、
本来ならば許されるはずのないことではあったが、
現女王が、そういった事柄に対し、寛容さを示していた為、
二人の関係は、聖地では暗黙の了解となっていた｡

もう何度も訪れた、オスカーの屋敷｡
さすが守護聖の屋敷らしく、立派な建物と、それに劣らない庭、
そうして礼儀正しい使用人たちが、今日もアンジェリークを出迎える｡

「では、アンジェリーク様、どうぞごゆっくり」
執事が深々と頭を下げていつもの扉を開く｡
アンジェリークは礼を述べてから、部屋の中に入った｡

そこはオスカーの書斎兼寝室｡
華美な装飾は一切施されてはいないが、品のいい調度品でしつらえられた部屋だった｡

が、いつも整然としているはずのその部屋に入った途端、
アンジェリークの眼に飛び込んできたのは、おびただしい数の箱の山｡

「よお、お嬢ちゃん、久しぶりだな。会いたかったぜ」
アンジェリークの姿を目にすると、オスカーは組んでいた足を優雅に解いて、
ソファから立ち上がった｡

「こんにちは、オスカー様。･･･でも、あの、これ、この箱、
何なのか、お聞きしてもいいですか？」
高く積み上げられた幾つもの箱の山を前に、首をかしげるアンジェリーク｡
「ああ、いいが･･･けどその前に」
オスカーは片腕でアンジェリークの腰を引き寄せると、
その胸の中に強く抱き締めた｡
同時に、オスカーの深い吐息がアンジェリークの耳にかかる｡
それだけで、アンジェリークは頭にぼうっと血が上るのを感じた｡
「会いたかった･･･悪かったな、一週間も聖地を離れていて」
「いいえ、それより惑星調査で、お疲れでしょう？」
「･･･お嬢ちゃんは、いつも優しいことを言ってくれるな｡
だが、それよりも俺としては、『会いたかった』って言葉が聞きたいんだが」
内気な少女のアンジェリークは、この言葉に顔を真っ赤に染めたが、
自分も正直な気持ちを、オスカーに告げることにした｡
ただし、顔をオスカーの胸に、ぴったりとくっつけて。
「･･････あ、の、私も、オスカー様に、お会いしたかったです･･･」
蚊の鳴くような声で呟く｡
それを聞いて、オスカーは満足そうに頷くと、軽くキスをして、
その腕を解いた｡

「で、お嬢ちゃん、この箱のことだったな」
言いながら箱の山に近寄り、その中のひとつを手にとって、蓋を開けた｡
中から出てきたのは、光沢のある、サンドベージュのシルクのドレス｡
アンジェリークは驚いて、それをまじまじと見詰めた｡
「わあ、すごく綺麗ですね、オスカー様」
「これは、お嬢ちゃんのものだ」
「えっ？」
「これだけじゃない。ここにある箱の中身は、全て君へのプレゼントだ｡
受け取ってくれないか」
言って次々と箱の中身を出すオスカー｡
正装用のドレスやら、ちょっと出掛ける時にいいであろう外出着、
更にはそれらに似合う宝石やら、鞄に靴などが、アンジェリークの前に並べられた｡
アンジェリークは、今言われた言葉の意味を図りかねて、
ただそのオスカーの手の動きを眺めるだけだった｡
「あの、で、でも、私、こんなに沢山頂けません｡
それに、頂く理由もありませんし･･･」
「もらう理由が無い？これはまたひどいことを言うんだな」
「えっ？ひどいって･･･。あ、あの、だって、別に誕生日とかじゃあないですし･･･」
「誕生日じゃなかったら、自分の愛する女に、贈り物をしてはいけないという
道理は無いだろう」

それは確かにそうかも知れない｡
だが、アンジェリークは、なぜ自分が突然、こんなにもの沢山の、しかも一見しただけで
高価なものだと分かるドレスや、宝石などを贈られるのかが分からなかった｡

「でも、どうして･･･？」
アンジェリークの問いに、オスカーはふっと眼を細めた｡
「俺としたことが、忙しさにかまけて、今までお嬢ちゃんに
プレゼントのひとつもしてやっていないことを思い出しただけだ」
「･･･それだけ、ですか？」
「不満そうだな、お嬢ちゃん。もしかして、こんな服は、お気に召さなかったのかな？」
「いっ、いいえっ！！あの、あのっ、っそうじゃなくって･･･」
アンジェリークは驚きに任せて、礼を告げるのを忘れていたことを思い出した。
「嬉しいです･･･。オスカー様。ありがとうございます」
「喜んでもらえたら、俺も嬉しいぜ｡じゃあ、早速これでも着てみてくれないか？」
オスカーが数々の服の中から選んだのは、真っ黒なキャミソール型のドレス｡
恐らくくるぶしまでありそうな長い丈に、細い肩紐と、裾の辺りに銀のラメが
施されている｡
それを手渡されて、アンジェリークは思わず怯んだ。
「あの･･･オスカーさ、ま･･･、まさか、あの、これを、着ろ、と？」
「ああ、出来ればそうしてもらいたいんだが」
「で、でも、こんなの、似合いません、私･･･」
「なぜそんな事を言う？」
「だって、大人っぽすぎます･･････」
俯いてしまったアンジェリークの顎をそっと持ち上げると、オスカーは
諭すように口を開いた。
「お嬢ちゃん、似合うか似合わないかは、着てみなけりゃ分からないだろう。
俺は、お嬢ちゃんに着て欲しくて、それを手に入れてきたんだ。だから、
それを着たお嬢ちゃんを、俺に見せてくれないか？」

渋々オスカーの頼みに従ったアンジェリークは、今隣室で着替えている｡
オスカーは、なかなか出てこないアンジェリークを、気長に待っていた｡
さっきは、ああ言ったが、オスカーは、アンジェリークにはきっと似合うという自信があった｡
自分が惚れ込んだ女、そして今自分の手で、徐々に女に仕立て上げていっている女なのだ。
どんなドレスだって、着こなせない筈がなかった｡
カチャリ、と、ドアが開く音と共に、漸くアンジェリークが戻ってきた｡
顔をなるべく伏せ、おずおず、もじもじとして、オスカーの前に近づく。
「着替えてきました･･･」
「ああ」
「あ、の、どう、ですか？」
「･･････」
オスカーが無言のままなので、アンジェリークは失望と共に、そっと上目遣いに
オスカーを見上げた｡
「やっぱり、駄目ですか、そうですよね･･･」
だが、見上げた先の、その顔には、ある種の「動揺」が浮かんでいた｡
そして、その眼は、食い入るようにアンジェリークを見詰めている｡

オスカーは、自分の眼が、信じられなかった｡
まさか、これほどまでとは思ってみなかった｡
ドレスの黒が、露出度の高い肩の白さを際立たせ、くびれたウエストが、
何とも美しいフォルムを全身に与えている｡
そうして、そんな姿で、恥ずかしそうに頬を赤らめながら、上目遣いにこちらを
見上げてくるその顔を見ただけで、オスカーは自分の中に、ある熱いものが
じわじわと全身を覆っていくのを、感じずにはいられなかった｡

オスカーは、しゅんとしているアンジェリークの腰を掴んで、自分に強く引き寄せた｡
「きゃっ」
突然のことに、アンジェリークはびっくりする。
だが、そんなアンジェリークにはお構いなしに、オスカーはアンジェリークの背に手を回し、
一層強く抱き締めた｡
「あの、オスカー様？」
「お嬢ちゃん」
「は、い？」
「綺麗だ･･･恐ろしいくらい、似合ってるぜ」
それを聞いて、アンジェリークの胸に、安堵と喜びが湧き上がった｡
「よかった、ありがとうございます」
ほっと胸を撫で下ろし、オスカーの広い胸に頬を寄せたアンジェリークは、
しかし、またドキッとさせられる羽目になってしまった｡
オスカーが、肩紐を外すのを感じたからだ｡

「オスカー様？！」
オスカーは、また無言のまま、右の肩紐を腕まで下ろすと、熱っぽい動作で、
鎖骨の辺りに口付けを落とす｡
「あ、あの、オスカー様、だめ、だめで･･･んんっ！」
最後の抗議の言葉は、唇に落ちたキスでかき消された｡
いつものオスカーのキスと違い、今日のそれは、最初から熱かった。
キスの初めから、舌を割りいれ、アンジェリークの舌を絡め取る｡
急に激しいキスをされ、訳の分からないアンジェリークは、
やっとの思いで唇を引き離した。
「どどど、どうしたんですか･･･？」
「お嬢ちゃんが悪い」
低くうめくようなオスカーの返事だった。
「ど、どうして？」
「そんな服を着て、俺を誘うからだ」
「･･･！！そ、そんな、だって、オスカー様が着ろって仰って･･･」
「ああそうだ。よく似合っている。似合いすぎるほどだ。
脱がすのが惜しいくらいだ」
「あ、あ、じゃあ、ここは、その、脱がさない、っていうことで、いいんじゃないかと･･･」
「いや、そうはいかないな。お嬢ちゃん、ひょっとして知らないのか？
女性のドレスは、何のためにあると思う？」
「ええっ？そんな急に仰られても、分かりません･･･」
「じゃあ教えてやろう｡女性のドレスってのはな･･･」
そしてにやりと不敵な笑みを浮かべて、
「男に脱がされる為にあるんだ」

オスカーらしい、その勝手な理屈に、アンジェリークが驚き呆れた瞬間をいいことに、
オスカーは、背中に回していた手で、ファスナーを一気に下ろした｡
「きゃあっ！」
アンジェリークの非難の言葉を、予めキスで防ぐ｡
そしてその手のひらが背中全体を撫で上げ、ゆっくりと、
オスカーの熱をアンジェリークに伝える。
その感触と、耳朶にかかるオスカーの吐息、そして先程から絶え間なく与えられている
首筋へのキスで、アンジェリークは視界がぼやけていくのをおぼろげに感じた。

そんなアンジェリークの、恍惚とした様子と、とろんとした瞳を見て、
オスカーは、アンジェリークを横たえてやることにした。
何てことない動作でそっとアンジェリークを抱きかかえると、
そのまま手近な位置のソファに座らせる。

全身にもはや力が入らないアンジェリークは、ソファの柔らかな背もたれに、
ぐったりとその身を預けることしか出来なかった。
オスカーは、そんな少女の足元に跪くと、自分が贈った黒の華奢なピンヒールを
そっと脱がせる。
「オ、オス、カー、さま、何をなさって･･･」
だがオスカーはそれには答えず、靴を脱がし終え、元から素足だったその足を
軽く持ち上げ、その甲に口付けた。
「オスカー、様･･･？！」
「この世で最高のレディに、愛と忠誠を」
顔を上げて、真っ直ぐに、真摯な眼差しでアンジェリークを見詰め、厳かにオスカーは呟いた。
一瞬、アンジェリークはそのオスカーの様子に正気を取り戻す。
だが、オスカーはふっと口角を吊り上げたように笑うと、また足元に屈みこんだ。

銀のラメを散らした裾を、大腿の真ん中あたりまでたくし上げる。
すると一気に、白く透明な感じのする形のいい足が露になった。
オスカーは、満足そうにそのラインを目で追うと、再び刺激を与えだした。
足の爪先から、上のほうへとじわじわと撫で上げる。
初めは足首まで、次にふくらはぎに口付けを与えると、今度は膝を弄ぶ、と
いった具合に。
オスカーに抱かれたことはあっても、こんな風に足を愛撫されたのは初めてだったので、
アンジェリークはこの見知らぬ感覚に、ただ溺れていった。
「んふう、んんっ･･･！ん、ふ･･･んん」
声は上げまいと何とか頑張っていたが、それも時間の問題であるように思われた。

「アンジェリーク、声を上げていいんだ」
「で、でも、ん、くふう、メ、メイドさん、たちに･･･んっ」
太腿の内側に舌を這わせていたオスカーは、少し唇を離すと、ふっと笑った。
「聞こえるって？ふっ、生憎だがな、この扉は思ったより分厚いんだ」
そうして遂に足の付け根にまで顔を寄せたが、相変わらず太腿に口付けるだけ。
アンジェリークは痺れを切らしたように、目で訴えた。
「オ、オス、カー、さまあ･･･」
「ん？どうした？」
「あ、あの、その･･･んん、だから･･･」
「はっきり言わなけりゃ、分からないぞ」
オスカーの目は、この上もなく可笑しそうに笑っている。
しかしアンジェリークには、まだ微かな羞恥心だけはしっかりと残っており、
とても口に出してどうこうして欲しいなどとは言えそうになかった。
「･･･お願い、します」
「何をだ？」
「んんっ･･･もう、いじめないで下さぃ～」
「こんな素敵なレディを、俺がいじめる訳ないだろう」
「だからっ！、･･･その、お願い･･･、もう、･･････
･･･あの、が、･･･我慢、･･･出来ません･･････」

我慢が出来ないのは、むしろオスカーの方だった。
苦痛と快楽の入り混じった、潤んだ瞳で懇願されると、もはや
オスカーはこれ以上じらせそうにないと感じた。
「まあ、この辺で許してやろうか」
そう言うなり、改めてソファの上のアンジェリークに覆い被さると、
そのまま一気に躯を押し進めた。
「ああっ、あん！」
直接には何も手を加えていないにもかかわらず、アンジェリークのそこは
すんなりとオスカーを受け入れた。
「はああ、ああん、あっあっ･･･」
「綺麗だ･･･アンジェリーク」
律動を繰り返しながら、オスカーは目で、唇で、体全体でアンジェリークを感じる。
そのあどけなさの残る顔は、今や完全に上気し、オスカーのキスで紅く腫れたような
唇が、僅かに開いて何とか呼吸を繰り返す。
そしてそんな表情に、首から下の、最早肩紐はずり落ちていたが、まだその白い肌に
纏わりついている黒いドレスがより一層淫靡な雰囲気を少女に与え、
オスカーは、それを見ているだけでも目眩がしそうになると思った。
腕の中の幼い少女を突き上げたかと思うと、同時に自分がこの大人の女に
包み込まれている、そんな感覚だった。

「んくう、はああ、ああっ、ああ」
オスカーの動きが一層早まる。
アンジェリークは、たまらずオスカーの首にしがみ付いた。
「ん、オスカーさま、もう、だめ･･･あっ！ああっ！！」
「ああ、俺もだ、アンジェ･･･っくっ」
アンジェリークの身体がビクンと痙攣すると、
オスカーも、それにつられるようにその身を震わせて、アンジェリークへと解き放った。

「オスカー様、折角の綺麗なドレスだったのに、これじゃあもう着られません～」
それから暫くして、漸く落ち着いたところで、アンジェリークはおもむろに
口を開いた。
「ふっ、大丈夫だ。メイドに出しとくさ。もう一度きれいになってるよ」
「そっ、そんなことできる訳ないじゃないですかあ～」
誰が見ても、情事の名残がするそんなものを、とても見せられる訳がない。
オスカーは、彼女の考えていることをすぐに理解すると、ニヤッと笑った。
「じゃあ、また買ってきてやる」
「そ、それもやっぱり、悪いですぅ」
「悪くはないさ。色んなお嬢ちゃんが見られて、気分がいいからな」
「･･･オスカー様、まさか、また同じようなこと、なさるおつもりですか･･･？」
「同じようなことって、例えば？」
「ええっ！だ、だから、その、今みたいな･･･」
「『みたいな』じゃあ、よく分からないな。具体的には？」
「そ、そんな、その、もう、分かっていらっしゃるくせに」
だがずるいオスカーは、肩をすくめて「わからないな」とでも言うようにすっとぼける。
「もう！オスカー様」
「ははは、分かった分かった。だがな、お嬢ちゃんが悪いんだぜ」

そう、全てはアンジェリークのせい。
愛らしくて、可愛くて、なのに急に大人っぽくなって、色香を振りまく･･･
あどけなさと成熟さを同時に見せてくれる、
そんな君に俺はどうしようもなく、魅せられて、誘われる。

「そう、全部君のせいだ」
「わ、私のせいですか？」
「ああ。俺をこんなに夢中にさせて･･･アンジェリーク、
･･････愛しているよ」