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Calling
荒い息遣いがレヴィアスの目覚めを促す。
腕の中には愛しい女であるエリスが、苦しそうな顔をして喘いでいた。
互いがぴったりと重なり合うほど密着しており、肌越しに伝わる熱でレヴィアスは尋常でないと察する。
「おい……お前、熱あるんじゃないのか？」
いつもならもっと軽やかな声で反応するエリスなのに、声を出すのも辛そうな感じで、エリスは気怠げに
ゆっくりと起き上がる。
「大丈夫か？…」
「う、うん……もう朝なのね。そろそろ起きないと…」
「そんな身体で何が出来る？」
レヴィアスはエリスの手首を掴み、引きとめようとした。
「でも…奥様がお目覚めに…」
「お前以外にもあの女の世話をする奴いるだろう？」
「……それでも…仕事を投げ出すわけにはいかないわ…私はメイドだもの」
人より華奢な骨細のエリスが、苦しそうにしてるのを見ているのが辛くなったレヴィアスは強引に
引き寄せて寝かしつける。
「お前はここで寝てろ」
「でも…」
「いいから…」
レヴィアスは身を起こし、脇の椅子に引っ掛けてあったシャツを羽織り、ベッドで寝ているエリスの
額にくちづけをする。
「心配するな」
そう言い残して部屋を立ち去った。
レヴィアスが朝早く、連絡もなしに姿を現したので、レヴィアスの母親付きのメイド達は困惑しきっていた。
「お待ち下さい…レヴィアス様、どうか…」
「自分の母親に会うのに何故止める」
「ですが、まだ奥様はお目覚めでは…」
メイド達の悲鳴にも似た声が広い廊下に響き渡る。
「うるさい…黙れ」
レヴィアスが一睨みすると、気弱なメイドは気を失った。
それでまた騒ぎは大きくなる。
取り囲むメイド達をものともせず、レヴィアスは母親の部屋へと急いだ。
重厚な扉をわざと乱暴に開けると、天蓋付きのベッドに母親は寝そべっていた。
派手な顔立ちではあったが、やはり寝起きは歳相応で、レヴィアスは失笑を禁じえない。
「何ですか…騒々しい」
金ぎり声を張り上げる母親を冷ややかに見下しながら、レヴィアスは傍まで近付いて言い放った。
「エリスを今日一日借り受けたい」
「何かと思ったら、いいかげんになさい。噂で聞いてたけれど、まさかここまでとはね…レヴィアス
たかがメイドごときにこんなに入れ込んで、恥を知りなさい。まったく、皇統の血筋を汚して…」
母親は不愉快そうな表情を隠そうともしない。
「皇統の血がいかほどのものか。皇位につけないのなら、犬にでもくれてやったほうがマシだ」
レヴィアスの吐き捨てた言葉に、母親は傍からみても分かるほど青ざめていた。
「レヴィアス！！ 黙りなさい…どれだけ私達の立場が危ういか判ってるの？このことが少しでも
あの方の耳にでも入りでもしたら…皇位を狙ってるという素振りを見せれば、容赦なくあの方は私達を
……ああ、何て恐ろしい」
ヒステリックになる母親にレヴィアスは冷酷に対処する。
「ならば母上、あなたの大切な宝石や衣装や今の身分を失いたくないのなら、エリスと引き換えに
俺は大人しく引き下がることを約束しよう。簡単な取引だ」
「……好きになさい……ただし判ってるわね？」
「ああ…不穏な発言は控えよう」
「もう出て行きなさい。顔も見たくない」
「言われなくても出ていくさ」
母親の視線を背に受けながら、レヴィアスは去って行く。
一方、エリスは寝かしつけられていたベッドから這い出て、ふらつきながらも床に投げ捨ててあった服一式を
手に取りベットの上に置いた。
いつもならもっと迅速に立ち振る舞うエリスだったが、熱のせいで動きも鈍い。
身支度を整えようと一生懸命なのだけど、おぼつかない手つきで下着を身に着けていた時、
「何をしている」
トレーを持ったレヴィアスが、扉の向こうにいた。
「眺めてる分には悪くないけどな…」
あられもない姿を曝してるのに気付いたエリスは、耳たぶまで真っ赤になってその場にしゃがみこんだ。
「意地悪…」
エリスの元に歩み寄ったレヴィアスは、トレーをサイドテーブルの上に置いてから、自分の羽織っていた
シャツを着せる。
「俺は寝てろって言ったはずだが…」
「動いてるうちに治っちゃうわ…だから…大丈夫よ」
「バカ、無理するな…それにあいつの元には行かなくていい」
「レヴィアス…まさか」
「心配するな…今は寝てろ。薬も持ってきた」
「でも……」
「いいからこれを飲んで寝ろ。俺が添い寝してやる」
しゃがみこんだエリスをそっと抱き上げ、ベッドに横たえさせると、レヴィアスはトレーの上に置いてあった
グラスの水を飲み干し、薬をエリスの口に含ませた。
そして、口移しでエリスに水を飲み干させた。
すべてを飲み切ったエリスは、
「ふふ、私って幸せだわ…まるで物語に出てくるお姫さまみたい…だって皇子さまに看病されてるんだから。
スラム出身の私が、夢みたい…」
いじらしい返答にレヴィアスも堪らなくなって
「早く元気になれ…」
と、言いながらレヴィアスはベッドにもぐりこみ、エリスの身体を抱きしめた。
「レヴィアス…ごめんね…奥様とケンカしたんでしょう？」
哀しそうな瞳を向けてエリスがレヴィアスの背に手を回した。
細やかな気遣いを見せるエリスが堪らなく愛しくて、更にきつくレヴィアスは抱きしめる。
「あの女は…俺よりも…今の生活を続けられればそれでいいんだ。俺はあの女よりもお前の方が大切なんだから今は何も考えるな…いいな」
「じゃあ、我侭言っていい？ 病気だから大目にみてね」
「お前が望むなら…」
「あのね、眠るまで私の名を呼んでて…」
「判った…エリス…」
「ありがとう…レヴィアス…」
「エリス…エリス…エリス」
レヴィアスはずっと囁きつづけた。愛しい女の為に。
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ストーン司ちゃんのイラストのあまりのラブラブっぷりに私の創作意欲が思わずむくむくと湧きあがりました。このイラストを見た瞬間、この話が頭の中に思い起こされ、遅筆な私にしては珍しく2日で仕上げてしまっていたのです。だってね、エリスを見つめるレヴィアスの目が余りにも優しすぎたから…思いっきりエリスを大切にしているレヴィアスが書きたくなったのですよ。やっぱりレヴィアス一途だから…これぐらいして欲しいなって思う私のかなり願望が入ってますが…（笑）