夜明け前

レイチェル、遠い宇宙で待っているあなたに、誰にも言えないことを打ち明けるから、聴いて欲しいの。

この声が届かなくても…。

明日は皇帝との対決。

怖いくらい静かだわ。あまり上等といえないベッドで寝返ると、きしんだ音が耳につくぐらい。

決戦の時を迎えて興奮しているのね。でもね、負ける気はしないのよ。不思議と…ね。

もちろん勝負だから、どう転ぶかわからないけど。

明日で何もかも決着がつくのね。　長い旅で、いろんな出来事があったわ。辛いなんて全然思わなかった。

だってヴィクトール様が側にいてくださったんですもの。

大好きなヴィクトール様。

ねえ、レイチェル聴いて！！

さっき、ヴィクトール様がね、私を外に誘って、こうおっしゃったのよ。

「アンジェリーク、この闘いが終わったら二人で祝おう」

その時、ほんの少しだけ私は自分の立場を忘れてしまったの。ごめんなさい。いい訳なんて見苦しいわね。

それでも…とっても嬉しかったのよ。この闘いが終わってしまったら、二度と逢えないんですもの。

だから、お受けしたのよ。

そしたら、ヴィクトール様ったら、まるで少年のような笑い顔を浮かべたの。私の不安だった心がみるみる

薄れてしまったんだから、本当に心って不思議なからくりを持ってるのね。

あなた一人をあの淋しい宇宙に残したままで、私一人がこんなに浮かれていて不謹慎極まりないけど、でもね、

これで最後だから……この身は宇宙に捧げていても、心の底の小さな想いだけは自分のモノとして、取って

おきたいの。いいでしょう？

あなたの待つ宇宙に戻ったら、ちゃんと女王として生きるから、お願い！！

ヴィクトール様に言えないから、ここでこの想いのたけを告白しておきたいの。

女王試験が終了する前、とても悩んだわ。私はヴィクトール様と新宇宙との狭間で揺れていたの。

本当は女王になどなりたくなかった。あの人の側でいたかったの。

アルフォンシアはまだまだ目が離せない状態で、縋るように私を求めるのよ。まだ独り立ちも

できないアルフォンシアを見捨てられないじゃない？　ヴィクトール様の側で一緒にいても、きっと

アルフォンシアを忘れられないに決まってる。

だから、女王になったの。

戴冠式のこと覚えてる？レイチェル。

ヴィクトール様はこうおっしゃったわ。

「お前に言い残したことがあるようで、昨日は一睡もできなかったよ。でも、もうお前は大丈夫だろう」

全然、大丈夫じゃないって心の中で叫んだわ。

未練たっぷりで新宇宙に旅立ったのよ。アルフォンシアに気付かれないようにね。

そこから、私の苦しみが始まったの。

生命のない新しい宇宙はとても淋しいとこだった。あなた以外に誰もいないんですもの。アルフォンシアと

あなたが寝静まった夜にだけ、私は自分の心を晒していたの。独り寝の夜は言いようもなく淋しくて、

じわりと背骨の辺りから言いようのない虚しさが湧いてくると、寝つけなくなるの。気付くと、枕も湿っていて

それが涙なのか、汗にあえいでいるだけなのか判らないのよ。

そんな状態を繰り返してたわ。ロザリア様が来るまではね。

ごめんねレイチェル。怒らないで。まさかあなたが一緒に来てくれるなんて思ってなかったから…あなたには

どんな言葉を尽くしても尽くしきれないぐらい、感謝してる。あなたがいてくれるから、私は女王として

頑張っていけるのよ。

もし、あの時、ヴィクトール様を選んでいたら、違った人生を歩んでいたでしょう。でももう遅いの。もしもと

いう言葉は、今は何の意味もないもの。

愛してるから近づきたい。これは恋したら誰もがもつ感情でしょう？　だけど、愛してるからこそ近づけない。

これも恋の真理だと私は思うの。どう言ったらいいのかしら、上手く説明できないけど、真にヴィクトール様の

幸せを考えるなら、この恋は実らせてはいけないの。だってそうでしょう？

女王の座を降りるまで、どれだけの月日が流れるの？　まして別の宇宙で暮らす私だもの。何時逢えるか、

生きてる間に逢えない可能性のほうが高いのよ。ヴィクトール様の一生を縛り付けてしまうわ。

だったら、なかったことにするのが一番いいの。そう考えて旅を続けていたのに、いくら心で戒めていても、

目でいつもヴィクトール様の姿を追ってるし、危険が迫れば身を挺してかばおうと身体が勝手に動いてしまうのよ。

私が思っていた以上に身体は正直なのね。

ねえ、レイチェル？　想い出だけで人は生きられると思う？　明日の闘いが終わったら、最後にヴィクトール様の

姿を瞼に焼きつけるわ。鳶色の瞳、褐色の髪、大きな手、私を助けてくださった逞しい腕、何もかも愛しい人を。

告白はしない。想い出は胸に秘めておくの。言えない痛みはあるけど、ヴィクトール様を困らせるわけには

いかないし…ね。それに辛くなるだけだから。

今となっては、私が帰る場所はあなたがいる宇宙だけ。ヴィクトール様のもとじゃないから、黙ってる。

想い出はいっぱいあるから。忘れない。

モンスターに囲まれて、危険を感じたときに助けていただいたことも、仲間だと思っていたアリオスに

裏切られたときに慰めてくださったことも、星空の下で褒めてくださったことも、そして、さっき私に

「お前を守る」

って、言ってくださったことも、何もかも私の心にしっかりと縫いつけておくわ。

ヴィクトール様と過ごした時間は、とても幸せだったのよ。

私が証明してみせるわ。人は想い出だけで生きていけるってね。これでも私、強くなったのよ。これからは

苦しいなんて言わないわ。

もう、夜明けなのね。聴いてくれてありがとう。言えば楽になるって本当のことだったのね。これですっきりした。

これから、どんな困難が待ちうけてるのか判らないわ。想像も出来ない。でも平気よ。だって約束したでしょう？

あなたの元に返るって。だから待っていてね。レイチェル。

忘れもしない、去年の４月１２日天空のレクイエムＰＣ−ＦＸ版のエンディングをヴィクトール様と

迎えてしまったときに、こんな乙女ちっくなお話を考えてしましました。しかし、マジであのエンディングは

アンジェもそれなりに積極的で（笑）あの大きな背中に抱きつくってのがもうたまらなく私のツボにはまったのでした。

その時までリモージュちゃんラブラブ派だったのですが、あの「さようなら…ヴィクトール様」って言った

茶アンちゃんが切なくて×１００。一気に茶アンラブラブになったのです。あのエンディングは泣けます。

ＦＸ版とＰＳ版は同じ話でもかなり違った印象を受けますけれど、ヴィク×アンは絶対ＦＸ版のほうがいいです。

わ