宴のあと

すでに二人は幸福だった。

元女王候補アンジェリーク・コレットと守護聖ランディは、あらゆる人々から祝福され、華やかな宴の
主役として、結婚式を挙げている途中だからだ。

聖地の宮殿にて、女王の御前で誓いを述べ、厳かな儀式を終えると、いささか緊張していた二人も
にこやかに笑える余裕ができていた。

純白の花嫁衣裳に身を包んだアンジェリークは、晴れやかな笑顔で、夫となるランディを見つめている。

「夢のよう…」

感極まっているのか、小さな声で呟くアンジェリーク。

鈴の音を転がしたような涼やかな声音を、騒然とした会場の中でもランディは聞き逃さない。

「これは夢じゃないよ、アンジェリーク」

その横でいる夫のランディは、妻となるアンジェリークと結婚できた喜びに、ドキドキしっぱなしだ。

栗色の髪を花々の冠で結い上げて、か細い肩と首筋を剥き出しにしてるせいか、白い肌がよけいに
白く見えた。視線を顔に向ければ、ふっくらとした薄紅色の唇は誘いこまれるほど魅惑的で、蒼碧色の
瞳はしっとりと潤んでいて、アンジェリークの美貌は辺りを照らすほど輝きに満ちて、ある種の神々しさ
を生み出していた。

夢と美を司る守護聖オリヴィエが直々にデザインしただけあって、アンジェリークの可憐さと美しさを
強調して、式に出席した人々は誉めそやす。

見惚れるばかりのランディに、女王が歩み寄ってきて、

「おめでとう、ランディ、アンジェリーク」

と、祝辞をいう声が響き渡ると、会場内もたちまち拍手の渦が湧き起こった。

聖地の誰もがこの二人の恋の行方を見守っていたのだから、今日の婚礼が盛り上がらないわけがない。

宴は華やかに繰り広げられて行く。

それでもやがて宴はお開きになり、皆に見送られながら、二人は馬車へと乗りこんだ。女王の計らいで
二人は聖地の外れにある、館へと向かっている。

この館は、女王や守護聖の為に作られたものだが、今ではめったに利用されることもなく、生い茂る
森の中にひっそりと建っていた。

辺りが薄暗くなってるせいか、なんとなく寂しげに見えてしまったランディだったが、蔦が鬱蒼と絡まってる
豪壮な門をくぐり抜けると、中世の城のような大きな建物がライトアップされていて、とても幻想的だった。

その建物の玄関に馬車が到着し、馬車から二人が降りると、執事らしき人物が出迎え、

「お待ちしておりました。こちらにどうぞ」

と、歯切れのよい返事が帰ってきて、ランディとアンジェリークを館の奥へと案内した。

玄関を入るとそこは光の海のような照明に彩られ、豪華な調度品をさらに輝かして、飾り付けられてる
花々の匂いが辺りにたちこめて、御伽噺のような雰囲気を醸し出していた。

「すごい……綺麗だわ」

アンジェリークの口から洩れた言葉にうなずきながら、ランディは新妻の手を握った。

「ランディ様…」

頬を真っ赤に染め上げたアンジェリークが堪らなく可愛らしく、早く部屋に着けばいいとランディは願う。

長く広い廊下を通りぬけると、大きく重厚な木の扉が見えて、案内していた執事が、

「こちらでございます。どうぞ」

と、重々しい扉を開けた。

部屋はとても広く、壁や天井は淡いピンク色、ソファーやクッション、床の絨毯は
すこし濃い目の甘過ぎないピンク色であったので、品がよく、まとまった印象を受けた。

アンジェリークはすぐに気に入った様子を見せ、

「素敵………」

と、声を洩らすと、ランディの握り締めた手を解いて、窓辺へと近寄っていく。

「私どもがご滞在の間、お世話させていただきます。何なりとお申しつけくださいませ。私、
執事のセバスチャンと申します」

と、横やりが入ったので、すかさずランディは

「じゃあ、ドアを閉めてくれないかな、セバスチャン」

それまで傍に立っていたセバスチャンははっとしたように一礼をすると、ドアを閉めて出て行った。

二人きりになるとすかさずランディはアンジェリークの傍まで歩みより、

「今日は疲れただろう？…アンジェ」

自分の胸に引き寄せて、アンジェリークの耳元で囁いた。

「はい、でも大丈夫です」

ランディの背に、アンジェリークは腕を廻す。

「やっと、二人きりになれたね」

「……やだ……ランディ様ったら……」

囁かれた意味を理解したアンジェリークは、恥ずかしさのあまり、目を伏せた。

「どうして瞼を閉じるの？　……俺を見てよ…」

なおもアンジェリークに囁き続けるランディに対して、アンジェリークは

「だって恥ずかしいんですもの…ランディ様のその青い瞳で見つめられると、私、どうしていいかわからなく
なってしまうんです…」

「アンジェ………君が目を閉じてると、どうしてだか不安に襲われてしまうんだ。今だってそうだよ、ひとり
ぼっちの子供みたいに心細くなる。ねえ、目を開けて、俺を見て…不安にさせないで」

恥じらいながらもアンジェリークが、長いまつ毛に縁取られてる目を開くさまは、蝶が羽を広げるようで、
その美しい瞳を見るだけで、ランディは愛おしさが溢れ、自然に唇にキスを落とした。

「あ…」

「アンジェ、ずっと一緒だよ」

ランディは力をこめて、アンジェリークを抱きしめた。

お待たせしました（いつもこのセリフばっかりだ…反省）

新婚さんの、こう甘い一時をと、考えたのですが、ですが、甘いでしょうかね〜もう自分では分かりません(T_T)
ちょっとセリフが恥ずかしいのはランディ君だというのが基本なんですが（笑）、やはり新婚で

初　夜

ですもの（笑）　これぐらいはして欲しいですね。