星の降る夜に…

もう、時計は深夜を回っている。すでに部屋に戻っていたエリスは

美しい星空に誘われて、窓辺に身を任せていると、

降ってきそうな星空の下、庭にすらりとした黒い影をエリスは見つけた。

「あら？レヴィアス様かしら…」

そう呟くと、庭に下りるためエリスは自分の部屋を後にした。

今夜は、『星に誘われて』もおかしくないほどに夜空が美しい。

星明かりを頼りに庭に下りたエリスは、窓から見えた景色を頼りにレヴィアスを探した。

少し、庭を歩くと、見慣れた背中の影を見つける。

エリスは、静けさを壊さないようにゆっくりと近づいた。

「レヴィアス様」

そっと声をかけると、レヴィアスはまるで予想していたかのように振り向いた。

「…エリスか…」

この季節だ。一言話しただけでも、吐く息が白いのが見えてしまう。

今、外に出ている二人はコートも着ていない。レヴィアスはブラックのパンツに

シルクのドレスシャツを気崩した上に薄い上着を羽織っているだけという軽装だ。

「レヴィアス様。ここに立っていてはお風邪を召します…中にお入りになった方が…」

かすかに白い息を吐きながら、エリスはレヴィアスを気遣う。

「ふん…どうせ、あの女に言われて来たんだろう？」

気遣い、という言葉に無縁な青年は少女の好意を無下にした。。

「いいえ。奥様には言われていません・・・自分の考えで来ました。」

ゆっくりと紡がれる迷いの無い答え。エリスはいつものとおりに正直に答えていた。

そう。彼女はこの館に奉公を始めてからは、

この青年に対して社交儀礼を使ったことがない。

彼と話すときに、口だけの言葉などいらないのだ。

実の無い言葉は彼を傷つけることを知っていたから。

「あくまで主人の名は出さない…か。まったく…使用人の鏡だな。」

「そんな・・・本当です。私…レヴィアス様が心配で…」

どうしても信じてくれない青年に、エリスは、子犬のような目に滴を溜めながら

レヴィアスを見上げた。

エリスの視線の先には青年のオッド・アイがあったが、先に目をそらしたのはレヴィアスである。

「心配で…か。はっ！俺のことを心配する人間なんてこの王国にはいない。

　あの女を筆頭にな。

　まっ、心配というなら…俺がお偉方に睨まれて、贅沢できなくなるかもしれない

　心配ならするだろうけどな。」

自嘲的に吐き出された言葉とは裏腹な悲しみが、エリスには分かった。

レヴィアスはエリスの瞳を見ようとはしない時、口先だけの強がりを言うときの

彼の癖だった。

「いいえ…貴方を心配する者は、少なくともここに一人います。」

エリスは両手を自分の前で力一杯組みながら、言い募った。

「ほぉ…じゃあ、俺が突然この王国から出ていったらどうする？」

いきなりの比喩に、エリスは一瞬固まった。思わず頭の中で反芻する。

レヴィアス様が…ここを…でて、いかれる…っ…？！

少女は、ためらい無く一つの結論を導き出した。

「…私も、王国をでます。そして、貴方を捜します…」

「こんなおちこぼれ王子をか？」

「はい。」

（だって…レヴィアス様が…好きだから…）

エリスは、それ以上は言わなかった。だが、

テレパシーを送るようにレヴィアスを見つめている。

レヴィアスは、意外な物を見るような視線をエリスに送ると、

エリスは、そんな彼の瞳を真っ直ぐに見つめ返した。

澄んだオッド・アイとヘテロクロミアの視線が絡み合う。

真摯な眼差しに一瞬、レヴィアスの相貌に柔らかな光が灯ると、

少しはにかんだ笑顔を浮かべながら、レヴィアスは、

「物好きな奴だな、お前は…。まぁいい、冗談だ。」

「レヴィアス様…」

初めて見ることができたレヴィアスの笑顔。エリスも微笑を返す。

「このまま、戻るのも味気ないしな。しばらく、散歩の相手をしてくれるか？」

「お相手だなんて…そんな…」

好意を抱いている相手からの誘いは、抗いがたい誘惑。だが、今の自分は

一介のメイド。主人の相手として歩くわけにはいかない。

立場がもどかしかった…

「じゃ、俺の散策の供をしろ。どうだ？」

「はい。承ります。レヴィアス様。」

見ているだけで癒される笑顔をレヴィアスに向けてくるエリス。

その夜、レヴィアスは自分でも不思議なほど自然にエリスを受け入れていた。

エリスの純粋な思いもあったが、二人を柔らかい光で包み込む星達の

力もあったかもしれない。

散策の供とはいっても、もし何も知らない者が二人を見たら、忍び逢いの

恋人同士にしか見えなかっただろう。

そして、エリスは、レヴィアスが見せた初めての微笑みをずっと忘れることは

なかった。後に、彼のために命を絶つ瞬間まで・・・

あれほど、かたくなだったレヴィアスが、その日を境に笑顔を見せるように

なったことに館の者は驚きを隠せなかったという。

そう。一握りの人間を覗いて・・・

〜Ｆｉｎ

きゃ〜〜〜〜、幸せなレヴィ×エリだわ〜〜〜。春明さんのメールに、エリスは初めてレヴィアスに

あったときから好きだった、と書いてあったのをみて、うんうんと頷いてしまいました。どうみても

PS版では、そうとしか春見は思えないのですよ。レヴィアスの性格からして、自分からは絶対好きに

なんないだろうなぁ〜、誰か歩み寄ってそれから…と想像していたので、こんなに的確なお話を見る

ことができて、春見は震えてます。春明さん、ありがとうございました。