唯一人の貴方に（Present for you. Var,Randy）

「うーん。どれがいいかなぁ？これだけ一杯あるとかえって決められないよ。」

ここは、主星のとある花屋の前である。

この少年は地声が大きいのだろう。ああでもない、こうでもないと悩んでいる言葉が

いちいち通行人の注意をひいていた。

「だいぶ悩んでるみたいだね。プレゼントかい？」

感じ良く金色の髪を纏めた男性の店員が、ランディに話し掛けてきた。

「あ、はい。そうなんです。でも、俺こういったものに疎いから…」

「もし、よければ予算と希望を聞かせてくれないか？俺が作るよ。」

「本当ですか！ありがとうございます！」

予算は\3,000〜\5,000。できれば、赤い花をつかった花束を贈りたいということを伝えた。

「よし、分かった。じゃあ、ちょっと待っていてくれ。」

店員はそう言うと、まず、真紅の薔薇を引き抜いた。

多分、この薔薇をメインにするのであろう。

その後、赤のグラデーションを作るように何種類かを選び出していき、

最後にカスミソウを囲むように添えていった。

茎を切り、濡らしたティッシュで切り口を包むと、軽いオフホワイトのラッピングで仕上げる。

「こういう感じになるが、どうかな？」

「わぁ…綺麗な花束ですね。これでお願いします！」

「はは、ありがとう。ティッシュに砂糖水を染み込ませたから少しは持つからな。がんばれよ。」

「はいっ！」

ランディは会計を済ませ、花束を大切に抱えながら店を出た。

「あれだけ、迷うんなら…恋人だろうな。」

青年にも覚えはあるのだろう。弟を見送る兄の心境で呟いていた。

「さ、仕事に戻るか。」

気持ちを切り替えて、店内の掃除を始める青年であった。

聖地への帰り道は、かわいい恋人が待っているかと思うと自然に頬が緩んでくる。

「アンジェ…喜んでくれるかな…」

聖地にもどったランディは真っ先に、新宇宙の補佐官でもある恋人のもとに行った。

「ランディ様。お帰りなさい。」

淡いパステルイエローのドレスに身を包んだアンジェリークが微笑んで迎えてくれる。

「ただいま、アンジェ。逢いたかったよ。」

ランディはそう言うと、アンジェリークの額にふわりとキスした。

恋人になってくれた愛しい少女は、こうしたキスでも頬を染めてしまう。

「…もう、ランディ様ったら…」

恥らって身をよじる様子はとても愛らしい。弾みで少女の耳に赤く輝くイヤリングがシャランと音を立てた。

ランディは目の前の天使を手に入れた幸運を感じたくて、アンジェリークの腰を引き寄せた。

「本当に君って恥かしがり屋なんだね…かわいいよ。」

「ランディ…」

ふいに、香ってきた薔薇の香りにランディは我に返った。

「あっ！ごめん。アンジェ。君に渡したいものがあったんだ。」

ランディはアンジェリークに巻き付いている腕を開放した。

先程の花屋で作ってもらった花束を崩さないようにして持ち、アンジェリークに持ちやすいように渡す。

「アンジェ…これ…。」

「え…」

赤いグラデーションの花束を受け取ったアンジェリークは、驚きに目を見開いた。

「今日、君と恋人になれた日だったろ…だから。」

「ランディ様…覚えていて下さったんですね。嬉しいです。」

自分にとっても大切な日を、恋人も覚えてくれていた。

アンジェリークは、晴れやかに微笑みながら赤い花束の香りを堪能する。

「良い香り…ランディ様、ありがとうございます。」

「はぁ、よかった。…いや、俺。こういうのに疎くてさ…花束しか思いつかなかったんだ。」

照れ隠しに頭を掻くのは、ランディの癖。目線も落ち着かなく空を泳いでいる。

そんなランディを見たアンジェリークは、花束を抱きしめて訴える。

「そんなっ！…そんなことありません。」

これ以上無く真剣な恋人の声を聞いたランディは、アンジェリークに向き直った。

「アンジェ？」

「この花束。今までもらった物で一番嬉しいです。だって、ランディ様がくれたから…」

ランディに縋りつき、紺碧の瞳を潤ませながら訴えてくるアンジェリーク。

そんな健気な恋人をランディは、力強く抱きしめた。ふと、アンジェリークが身じろぐのを感じる。

自分が渡した花束の存在を思い出して、ゆっくりと恋人の身体を自分から軽く離した。

「あ…花束…生けなきゃ」

「そうだね…でも、女官に任せてくれないかな？」

「でも…」

「今日は、君といたい。君を感じたいんだ…だから…」

アンジェリークはその答えを紡ぐことが出来なかった。ランディに声を封じられたからである。

それでも何かを言おうとしても、鼻にぬける甘い吐息がもれてしまう。

ランディの想いを伝えるかのような口付けにアンジェリークの力が抜けていった。

やがてランディの唇から開放されたアンジェリークは、もう完全降伏するしかなかった。

花束を女官に預けると、ランディは力が抜けているアンジェリークを抱き上げる。

不意に、地面から離れた感覚を覚えたアンジェリークは力が入らない身体でランディに反論する。

「だ、大丈夫です！歩けますってばっ、ランディ様！」

「強がりはダメだよ、アンジェ。手に力が入ってないじゃないか。」

「手だけですっ！降ろしてくださいっ！」

「イ・ヤ・だ。」

「ランディっ！」

「言ったろ、君を感じたいんだって。」

誰かさんが言いそうな台詞（笑）を聞いたアンジェリークは、ぴったりと抵抗を止めた。

正直、図星を刺されたからである。

ランディが外界に行っている間、寂しくて仕方がなかったこと。そうして、ランディが

帰って来てくれた時には飛びつきたい衝動を必死に押さえていたことを見透かされたような一言だった。

ランディは、自分の腕や胸にアンジェリークの存在を感じていた。

すっかりおとなしくなったアンジェリークを腕に抱えて、いっそう愛しさがこみ上げる。

‘外界にいたときは、寂しかったよ…アンジェ。改めて分かった…俺の居場所は君の隣なんだって事が‘

アンジェリークから香る薔薇の残り香を嗅ぎつつ、ランディは一つのことを決心していた。

＜これからはどんなに忙しくても、二人の記念日は絶対祝おう＞と。

どこまでもラブラブな二人に起こった、小さくてもとても甘い出来事であった。

その後、ランディの私邸に薔薇園が作られた。その中に真紅の薔薇が入っていたのは

言うまでも無い。

〜Fin

-------------------------

春見さんへ。‘薔薇‘のテーマ創作・ランディ君編です。

一時、守護聖全員を巻き込んでの薔薇プレゼントにしようか？とも思ったのですが、

一気に全員の様子を書くと、かなり長くなることに気が付きました（爆笑）

今回。やっぱ、これくらいはしてほしいなぁ。と思いつつ書かせて頂きましたです。

内気ちゃんの可愛らしさにもう春見は好きにして〜〜〜状態（笑）　いやはやラブモードぶっちぎりですねぇ。

やはり好きな男性から花束を貰うのはいいものですもの。そしておまけにランディ君はバラ園を作っちゃうって

スケール違いますわ。さすが猪突猛進（笑）な男の子〜。これもアンジェにラブラブファイヤーだから

できることなのね。春見はさらに妄想を募らせてしまいました。春明さん（はぁと）