夜の終り
あの辺りにいるのかな、なんて一人で呟いてるだけなんだけど、夜空を毎日見上げるのがワタシの
日課。
アナタがロザリア様と一緒に宇宙の危機を防ぐために旅立ってから、どのくらいの月日が過ぎたんだろうね。
ねえ、アンジェ。
身体は大丈夫？ 怪我してない？
緊迫した状況だと察しているだけで、ワタシは何の手助けもできないけど、アンジェの代わりとしてちゃんと
この宇宙を導いてるから、安心して。
ところで、ヴィクトール様には会えた？
大変な旅だろうけど、ロマンスも体験しておかないとね(笑)
アンジェ、今がチャンスだってことわかってる？
隠したってバレバレなんだから。ワタシ、見ちゃったんだ。
女王試験最終日に森の湖で、ヴィクトール様とアナタとの抱擁。
アナタがヴィクトール様好きなこと知ってたから、このまま女王を辞退するのかとワタシは思っていたんだ。
なのに、女王になるっていうじゃない。
あれぐらいマジで驚いたことはなかったよ。
でもきっとアナタのことだもん。アルフォンシアを見捨てられなかったんだね。
それなら、ワタシもアナタと一緒にこの宇宙を育てていこうと覚悟決めたんだ。
こっちに来てから、ワタシと過ごしてる時、いつもより明るく振舞ってたけど、夜、ワタシが寝静まるのを
待ちかねて、泣いてたでしょう？
シラ切ってもムダだよ。
もう、そんなにワタシって信用ない？ 心配かけてもいいから、頼って欲しかったんだ。
でも、どうすることもできなくて…ワタシはヴィクトール様じゃないから。
だから、ロザリア様がワタシ達に助けを求めてきた時は、アナタの最後のチャンスだって直感したんだ。
絶対、旅の途中でヴィクトール様の力をお借りするだろうから、その時、きっとアナタが残してきた感情だって
復活するだろうし。
「まだ生命も誕生してないのに…」
アナタはそう言ってためらったけれど、
「大丈夫だよ…それよりもワタシ達の生まれ育った宇宙がなくなるほうがイヤだよ」
こう言えばアナタの負担が軽くなると考えたのよ。れっきとした理由なんだもの。
「レイチェル…わかったわ」
決意してくれたのに、ワタシったらロザリア様が持ってきてくださった闘いの衣装を身に纏った
アンジェの姿を見て、自分が言い出したことだったのに、一瞬不安になって、
「必ず戻ってきてって約束して」
って口走っちゃった。でもこの約束は守らなくてもいいんだよ。これはアナタを送り出すための、
ワタシの決意なんだから。
それにこれだけは言えるんだ。
女王が恋しちゃいけないとしても、そんなのクソくらえだって！！
アナタ達二人が創り出す空気に誰も割り込めないんだから。禁忌だって避けて通っちゃうよ。アナタは
優しいから、ワタシを一人残して、幸せになるのに抵抗を感じるんでしょう？
アナタの考えなんて、この天才少女レイチェルにはお見通しなんだからね。
もし、アナタがヴィクトール様と一緒に人生を歩んでも、ワタシ構わない。
もちろん、この広い宇宙でたった一人じゃ寂しい。それでもアンジェが幸せなら我慢できる。
女王補佐官としてこの宇宙を導いていくよ。
知ってた？
ワタシ、アナタが好きなんだよ。
ああ、誤解しないでね。この好きは恋じゃないんだ。
いるだけで温かくなるような、むずがゆい感情ってあるでしょう？ アナタがそれ教えてくれたんだよ。
自慢だけどさ、ワタシってキレイだし、頭もいいし。それって妬みの対象なんだよね。
ワタシ、友達って呼べる人いなかったんだ。同じ歳の女の子からは嫌われていたし、
話も合わなかったし、一人でもいいってそればっかり思っていた。そんなワタシだから、
アナタを初めて見たとき、苦手なタイプだな〜って感じちゃったんだ。
覚えてる？
ワタシの不注意で大切なレポート用紙を風に飛ばされちゃった時、たまたま通りがかっただけなのに、
聖地中を駆け巡って一緒に捜してくれたよね。
普通ならライバルの失敗をチャンスだと思うんだけど…日暮れるまで一生懸命だった。ワタシ以上に。
結局、そのレポート用紙はヤギに食べられていたけれど。
アナタに対する苦手意識は消えていて、友達を持つのもいいかもしれないって思ったんだ。
本とか勉強とかで得る知識よりも、アナタとの他愛ないおしゃべりとか、一緒に行動した経験とかの
方が身についてる気がする。
こんな普通の出来事も知らないままいたら、きっとワタシ頭でっかちの人間になっていた。
とにかく友情だってさ、ある程度好きって感情がなければ成り立たないってのが分かったんだし。
それだけでも一つ賢くなったと思わない？
まあ、案外ワタシもお人よしかもしれないけどさ(笑)
「レイチェル…ただいま」
声のする方向に降り返れば、そこにアンジェがいたんだ。
「たった一人で大変だったでしょう？ この宇宙を守ってくれてありがとう」
「アンジェ…無事だったんだね」
驚きのあまり声さえ震えてしまっていたワタシに、アンジェは、
「ええ、約束どおり戻ってきたわ」
本当にキレイな笑い顔を見せてくれたんだ。儚げな消え入りそうな微笑じゃない、すがすがしい笑みを。
夜明け前の変則的続き物です。 天レクで一番私の株を急上昇させたのは他でもないレイチェルでした。
だって、２のレイチェルってちょっと怖かったし。でもFXバージョンのレイチェルは本当に可愛かったんだよ。
で、出来た話がこれです。 夢みたいな話ですね。我ながら(笑)