Lovers night

黒髪のオッドアイの青年がきっかけをつくったことで恋人同士になれた男女。
身分違いということもあり、未だ二人の周囲には秘密だった。
青年の名はレヴィアス。女性・・・いや、少女というべきだろうか？
その名はエリスと言った。

相思相愛で自分の恋人になってくれたエリスをレヴィアスはこの上もなく
愛していたが、心から愛しているからこそ踏み出せない一線もある。
愛しているが故に、自分の欲望で愛しい者を傷つけたくはない・・・
そんなことを考えているレヴィアスとは対象的に、
エリスは、本当に愛しているからこそ言葉より確かな形が欲しい。
恋人に、女として愛されているという自信をもてる何かが・・・
と願い始めていた。

エリスは、奉公している館の女主人である、レヴィアスの母付きのメイドだ。
今日も今日とて、人使いの荒い主人の要求を同僚達と共にそつなくこなしていく。
主人の身支度、部屋の掃除、シーツなどの洗濯、食事の際の給仕、
アクセサリーなど、消耗品の管理と手入れ、主一家の話し相手・・・
枚挙すればきりがない。
けれど、元来こういったことをするのが好きな少女は、実に楽しそうに働いている。
だが、主の息子であるレヴィアスの秘密の恋人となってからは、
仕事が終わった後、恋人を想いつつ溜息を漏らすことが多くなっていったのだ。

「・・・レヴィアス様・・・」

ことりとも音がしない静寂のなかで、ぽつりと呟いたエリスの瞳は
恋する者を想って潤んでいた。
夜も更けている今、与えられた部屋の窓によりかかり、夜空を見上げている
少女は眠れずにいる。
もうすぐ、丑三つ時にさしかかろうかという時間だ。
さすがに眠らなければ明日の仕事に差し障りがあると分かっていても
エリスの精神は眠ることを拒否していた。

「・・・私は・・・まだ、子供なのですか・・・レヴィアス様・・・？
　でも、私・・・わたしは・・・」

切ない溜息と共にでてくる言葉。
誰に聞かせるというのでもない・・・想うが故に溢れきてしまう本当の気持ち。
自然に出てくる一滴の涙にも気付かず見上げた夜空は満天の星が瞬いていた。
歩くのに明かりがいらない月夜とは全く異なる景色が眼前に横たわっている。
つと立ち上がったエリスは、夜着の上に薄い上着を着ると
ある決意を胸に、中庭を経由する道から恋人の部屋に向かった。


そのころ、レヴィアスも眠れない夜を過ごしていた。
いつも通りに、ジンベースの蜂蜜酒をナイトキャップにしていたが
睡魔がまったく襲ってこない。
かえって酒を飲む前より、頭が冴え渡っている状態だ。
そして、冴えてしまった頭で考えることといえばエリスのこと。
彼女が自分の傍らにいない・・・この事実が青年の精神に重くのしかかっていた。

「くっ・・・眠れん・・・」

いくら目を瞑っても冴え渡る頭に、レヴィアスは無理に眠るのを諦めた。
整えられたシーツから滑り出るとガウンを羽織り、窓辺に寄る。
そのまま何をするでもなく佇んでいると、

【コン、コン】

人目をはばかるような控えめなノックの音が聞こえた。
この時間帯に屋敷を動き回る者はいない。動き回るとすれば自分くらいしかいないのだ。
レヴィアスは、怪訝に思いながらもドアに近づいていくと

「誰だ？」

「あの・・・エリスです・・・」

儚げな恋人の声を、ドア越しに聞いたレヴィアスは、彼女の存在を確かめるべく
静かにドアを開けたると、
そこには、生成地のネグリジェの上に薄いピンクの春物の上着を身に纏っている
少女がいた。

「・・・レヴィアス様・・・」

エリスは、恋人の瞳を目の当たりにしたことで、安心したような溜息と共に呟いた。
青年は、有無をいわさず目の前の少女を抱き寄せると、脱兎の如く扉を閉めて
鍵をかけた。
レヴィアスは、真剣な瞳でエリスに尋ねる。

「エリス・・・誰にも気取られなかったろうな？」

「は、はい・・・中庭の目立たない通路を通って来ました・・・」

「そうか、それならいい・・・」

エリスの答えに安心したレヴィアスは、ほっと溜息をつくと少女の細い躯を
一層抱きしめていく。
今のエリスの姿は、男にとってはかなり無防備なのだ。
この姿を自分以外に誰の目にも晒したくなくて、躯全体で少女を包み込むように
腕を絡めていった。

「よかった・・・」

「え・・・？」

「あ、いや・・・何でもない。
　それより、どうしたのだ？こんな時間に出歩くとは、お前らしくもない。」

「・・・レヴィアス様・・・」

「ん？」

「・・・私は・・・まだ、貴方のお相手にはなれないのですか・・・？」

「なっ・・・なにをっ・・・！」

「だって・・・いつも、こうして優しく抱きしめて下さるだけですもの。
　抱きしめるのも子供をあやすような抱き方で終わってしまいますし・・・
　私が、まだ子供だから、相手にならないのでしょうか？
　こんなに貴方を愛しているのに・・・」

言葉にするのが恥ずかしいのか。エリスは、レヴィアスの胸に顔を埋めながら
尻すぼみに話している。
少女の恥じらいを胸からダイレクトに伝わる振動を受けた青年は、
胸に埋まっている顔を無理やりあげさせると、瞳に強い光を灯しながら詰め寄った。

「誰が、我の相手になれない・・・だ？」

「え・・・あの、レヴィ・・・アスさま・・・怒ってます・・・？」

「ああ、怒っている。
　お前しかいらない、愛している。と言った我の言葉を信じていなかったことにな。」

青年に詰め寄られて、エリスは初めて思い出したのだろう。
頬をより紅く染めて両手で口に蓋をしたが、
レヴィアスは、有無を言わせずエリスを横抱きにした。

「れ、レヴィアス様っ・・・んっ！・・・」

不意に抱き上げられた腕から逃れようと抵抗しようとした少女。
レヴィアスは、何も言わずにエリスのピンク色の唇を塞いだ。
唇に感じる熱さに驚いたエリスは、動けずにいる。
次第に感じた息苦しさに、青年の唇から逃れようとしても、
レヴィアスに追いかけれて塞がれてしまう・・・
長く感じられる口付けから開放された唇からは呑み込みきれなかった
唾液が、銀色の糸を引いて二人を繋いでいた。
そのころには、少女の瞼もとろりとしたものになり、躯にも力は入らなくなっている。

「・・・我がこうしたいと思うのはお前だけだ・・・
　我は、お前を一度として子供と見たことはない・・・
　何者でもないお前自身だからこそ、我はお前の全てを知りたいのだ。」

「あ・・・」

「だが、ここに来るまで思い詰めていたのなら・・・
　今夜一晩をかけて教えてやろう・・・我がどれだけお前を愛しているかをな・・・」

エリスは、レヴィアスの囁きへの無言の応えとして、恋人の首に両腕を回した。
力の入らない細腕で懸命にすがりついている。
腕の中の少女の様子を愛しげに見つめたレヴィアスは、大切な荷物を落とさないように
細心の注意を払いつつ、天蓋に囲まれた寝台へと歩を進めた。

続く

李　春明さんのHP　小李公司のキリ番をゲットし、早速頂きました。今、私が求めて止まないレヴィ×エリです。ゲロ甘をと無理を言いまして、そんな無理を春明さんは答えてくれました。その後は別館の方にございます(笑)素晴らしく甘いの〜ムフフ。