掌へのキスは？

「あと一つね･･･」

このごろ、エリューシオンを見るたびに気持ちが重くなっちゃう。

このまま試験が終わったら、あの方とも逢えなくなる･･･

イヤ。絶対に嫌･･･このまま逢えなくなるなんて耐えられない！

･･･好きなの。クラヴィス様が･･･

逢いたい。合って私の気持ちを伝えたい･･･

そう思うと、足が勝手に森の湖へ向かってた。

”お願い･･･クラヴィス様に逢わせて･･･！”

森の湖の伝説。一縷の望みをかけて私は祈ったの。

「･･･お前か」

聞き慣れた艶のある声、思わず振り返ったら想い人がいらした。

「クラヴィス様。･･･お逢いしたかったです･･･」

「･･･そうか」

逢えて嬉しくて、ご挨拶の声が震えてしまう。。。

気がついたら、動けない私の前にクラヴィス様はいらっしゃる！

正面から見つめていらっしゃるので、クラヴィス様の綺麗なアメジストの瞳が

私を映し出していて･･･もうだめ、動けない。

「お前は、私を畏れぬのだな･･･」

クラヴィス様の言葉が、私の呪縛を解いてくれた。

一瞬、言葉の意味が分からなくて聞き返してしまったの。

「えっ、畏れる･･･ですか？クラヴィス様を？」

「ああ、他の者は私が闇を司るゆえに畏れ、近づこうとはしない。だが、お前は違う。

　お前は、いつでも笑顔で私に接してくる。･･･お前は、”闇”を知っているのか？」

「ええ、知っています。」

私は、きっばりとお答えした。

だって、以前話してくれた”悲しみ”や”苦しみ”が”闇”の一部だというのなら、私も持っていたから。

”悲しみ”や”苦しみ”を越えた向こうに”安息”という”闇”が待っているかもしれないと思っているから･･･

「ほう、知った上で私に接しているとはな･･･ふっ。だが、お前は光の道を歩んでいる。

　所詮、私とは相いれぬ存在だ。」

「そんな･･･クラヴィス様。”闇”は誰にでも存在します。怖いだなんて思っていません。

　”闇”から目を背けることはとても簡単です。でも、光と影が一対として在るように

　”闇”と”光”も一対のように思えるんです。そして、己の中の”闇”を認めず、

　目を背けることは自分自身から逃げていると思うんです。

　だから、”闇”を認め、正面から向き合うことの出来るクラヴィス様は、とても

　強くて優しい方です。」

「･･･お前は、そう思っているのか･･･随分と買ってくれたものだな･･･」

アメジストの瞳には、憂いの色が薄くなっていたように思えたの。そして、微笑みも浮かべて下さっている。

･･･今なら言えるかもしれない･･･私の本当の気持ちを･･･

「クラヴィス様」

「うん？」

「私･･･クラヴィス様が･･･好きです･･･」

クラヴィス様は、少しだけ目を見開かれて私の方を振り向かれた。

けど、すぐにいつもの表情に戻られて、

「アンジェリーク、お前は女王になりたいのではなかったのか？」

と確認するようにおっしゃったの。だから、クラヴィス様の目を見ながら申し上げたの。

想いが通じて欲しくて。

「いいえ。女王より大切な人が、目の前にいらっしゃいます。」

不意に、目の前を漆黒のカーテンが包んだと思ったら、クラヴィス様の腕の中にいた。

淡く薫る白檀の香りの中、クラヴィス様は言霊を紡ぐようにおっしゃったの。

「アンジェリーク。お前は、闇というものを知っていてもなお、そこに染まらぬのだな。

　そう･･･闇の中でいつでも柔らかく輝く光の道しるべのように･･･アンジェリーク、

　お前は私の光の天使だ･･･願わくば、私にも光の世界を見せて欲しい。お前と

　二人で光の世界を歩きたいのだ･･･。」

そう言って、クラヴィス様は私の手を取り、掌にキスをして下さった。

私は、騎士のようなクラヴィス様をうっとりとして見つめていたの。だって、

【掌へのキスは愛情の印】･･･ずっと、貴方の側に置いて下さい･･･愛しています。

Ｆｉｎ

李　春明さまより頂きました。切羽詰ったアンジェが健気で、可愛くて食べちゃいたいぐらいです。ホント。

掌のチューって、唇よりも萌えません？←そんなの私だけ？

何だかこう大切にされている感じがして、その辺がやっぱりクラヴィス様は紳士だと思っちゃうんですよ。

ああ、うっとりしちゃいます。こんな素敵な創作を頂いて、私、幸せ者ですわ。

ありがとうございました。