日も暮れた風花の街は今にも雪が降りそうで、岬からの帰り道を急ぎ足で宿に向かう途中の出来事でした。

私とアリオスはそれらに遭遇したのです。

暗闇の向こうからちかちかと点滅し、禍禍しいほど美しく幻想的な光。

星でもなく、かがり火でもない,蛍たちの大群。

「どうして…蛍が？」

「魔導の影響かも知れないぜ」

アリオスはこともなげに答えましたが、それだけではないような気がしました。

そして私は蛍たちに気づかされたのです。

天にも昇る気持ちから、一気に現実に引き戻されてしまいました。

これは私に下された罰だと…。

最初は危機を救う使命感に燃えていました。

生まれ育った宇宙を守ろうと一生懸命だったと胸を張って言えました。

アリオスに出会うまでは。

崇高な目的を持っていたはずが、あっというまに心をアリオスに占められてしまったのです。

少しでも旅を続けていたい。アリオスを見ていたい。

その気持ちは膨らむばかりで、旅がこのまま続ければと心の奥底で願っていました。

だから今日アリオスが誘ってくれた時はどんなに舞い上がったか…。

岬はとても寒くて震えそうだったけど、不思議と心は温かでした。

普段あまり自分のことを語ろうとしないアリオスが珍しく口を開いたことが嬉しくて、あまりに嬉しくて、はしゃぎすぎて岬の崖から落ちそうになったとき、アリオスが助けてくれた腕の逞しさに、私は宇宙の危機などどうでもよくなっていたのです。

でも生き物たちは死ぬか生きるかの瀬戸際だということを思い知らされました。

恋をしている場合ではないということを…。

罪もない蛍たちの輝きは段々と弱々しくなっていくばかり。

夏の夜空でしか輝かない蛍。

この寒さでは蛍たちの命は尽きてしまいそうでした。

「どうした？　そんな顔をして」

アリオスが私の瞳を覗きこんできます。

「この寒さでは死んでしまうわ」

ここまで蛍たちを追い詰めたのだと考えるだけで、涙が出そうになりました。

「そうだな。だが案外幸せかもしれないぜ」

意外な言葉でした。

「蛍ってのは恋に身を焦がすから光るって聞いたことがある。ならこいつらは決して不幸じゃない。見ろよ」

見上げると、蛍たちはゆらゆらとペアになって乱舞していました。

「確かにこの後こいつらは死んでしまうだろう。だけどまた夏に姿を見せるさ。恋は成就してるんだからな」

この言葉がどれだけ私の心を救ったことか。

たとえ気休めで言ってくれたとしても、その気持ちだけで心が熱くなります。

雪が降り始め、急に冷えてきました。

「このままでは、風邪をひいちまうぜ。そろそろ帰ろう」

急ぎ足でアリオスは宿屋に向かおうとしました。

「お願い！！もう少しだけ見させて…あれは…私なの」

私は蛍と自分を重ねました。

火をつけたのはアリオス。そして身を焦がしているのは私。

「何を言ってるんだ？　まぁ…お前が見たいなら付き合ってやるけど」

「ありがとう」

青白く輝く蛍たちは一つ二つと力尽き、雪に埋もれていきました。

あの蛍たちは夏にまた恋を告げられたのでしょうか？

今となっては…確かめる術もありません。

全てが終わり自分のいるべき場所に戻っても、私は戻らない時に想いを馳せつづけています。

全身を恋の炎に灼きつくされながら、アリオスへの恋心を消せずに。