永遠も半ばを過ぎて
「好きです…クラヴィス様…」
虫の声がしきりに鳴き、月の光が冴え渡る夜。
庭園で佇む影が二つあった。
その影の主は闇の守護聖クラヴィスと女王候補アンジェリーク。
鳴き続ける虫たちを気遣うように、女の声はあくまで細かった。
「私は困らせてしまったのでしょうか？…そんなつもりはなかったのに」
月光に照らされたアンジェリークの瞳は、今にも零れそうなほどひどく潤んでいた。
「好きだという気持ちは今も、いいえ、これからもずっと持ち続けていたい…」
クラヴィスはこれまでアンジェリークに見せたこともないぐらいの冷たい表情で答える。
「お前は…言葉の恐ろしさを知らぬ…牢獄と同じ様なもので、縛りつけるのだ。自分も…他人さえも」
半ば吐き捨てるように言う。
「……それでも、今の気持ちをクラヴィス様に伝える言葉は、これだけしかないんです。だから何度でも
好きだと言います。例えクラヴィス様が私を見ていなくても…私のことを想っていなくても…」
「人を想うということは…疫病のようなものだ…きっとお前は熱に浮かされてるだけなのだろう…
だから私のことは忘れるがいい。これ以上腐る必要はない…」
「腐るだなんて決めるのはクラヴィス様あなたではありません。もちろん他の誰かでもありません…
私が決めるんです…」
アンジェリークは自分の発した言葉にうながされて、涙が出そうになった。
闇のサクリアを持つクラヴィスをアンジェリークは最初恐ろしく思えて、近付くのも緊張していた。
その力が死を意味するようで…
だから、よっぽどのことがない限りクラヴィスの元には行かなかったのだが、試験も中盤に差し掛かる頃、
アンジェリークは昼間の庭園で貧血を起こし、倒れてしまったのだ。
たまたま通りがかったクラヴィスが、アンジェリークを抱え込んで寮の部屋まで送り、目覚めるまで
付き添っていたのだった。
「無理をするなとは言わぬ…だが、身体を壊すほど必死になる必要もあるまい。たかが女王試験だ
気負うことなど何もないのだ…今は眠れ…」
そう言って、アンジェリークの額に手をかざした。
その後、目覚めると朝が訪れていて、何時の間にかクラヴィスはいなくなっていたが、アンジェリークの
心の中にはしっかりとクラヴィスの印象が焼き付けられていた。
その時から、アンジェリークはクラヴィスしか見えなくなった。
通い続けることによって、クラヴィスの表情にも和らぎが見えるようになり、その微笑の柔らかさに
ますますアンジェリークの気持ちは膨らむばかりで、とうとう告白をしたのだが、
否定的な言葉ばかりを並べるクラヴィスに、アンジェリークは失恋したのだと感じずにはいられなくなった。
涙が後から後から零れていく…
うるさく泣くばかりの虫の声を遮るように、男の声が響いた。
「………好きと言ってしまえば、後は終るだけだ…どんなに好きあっていてもいつかは別れる時が来る」
言葉をとぎらせたアンジェリークの顔を、クラヴィスは両手ではさんで、近々と顔を寄せていく。
「………私は終らせたくない…永遠などありはしないと知っていながら…それでも永遠を願っているのだ…
お前との永遠を」
接近した二人の姿を見かねたように月が影に隠れ、先ほどまで鳴いていた虫の音も、
遠慮してピタっと止んでしまった。
思いがけない成り行きにアンジェリークはただ見つめるだけだ。
「アンジェリーク…永遠はあるのだろうか？」
深い湖を思わせるほどの憂いがちなクラヴィスの瞳に吸いこまれるように、アンジェリークは自らの背を
精一杯伸ばし、首に手を絡ませる。
「この腕の中に…あります」
「ならば…私も信じてみよう」
アンジェリークはクラヴィスの唇に自らの唇を合わせた。
そしてそのまま夜明けまで、二人の影は重なっていた。
非常にお待たせしました。甘々ラブラブをとのことだったのですが、どこが甘いの？って感じですね(-_-;)
はい、自分でもわかってます。これでもクラ×アンには思い入れあります。ありすぎて遅れてしまった
のですが、どうしても私が書くクラ×アンはアンジェが情熱的で、クラヴィス様が受身になってしまうのです。
と、いうのも、私がイメージするクラヴィス様は簡単に好きとか、愛してるとか言わないので、
こうなってしまいました。これじゃアン×クラだわ。もう自分で甘いのかどうかもわかりません（涙）
すみません。根性叩きなおしてきますんで、どうかお許しください。 文章書くのって本当に難しい。
そうそう、タイトルは中島らもさんの小説から取らせてもらってます。本家本元は素敵なのですが…
この語感の響きがとても好きで、何となくクラ×アンだと常々思っていたもので…。