恋うる罪人
神子殿 私は幾度罪を重ねていくのでしょうか………
京の怨霊を、その小さな身体から溢れ出さんばかりの清き力で、あなたは清め封じこめました。
それはあなたがこの世界に降臨されてから、今まで棟梁の命により疑いの目で見ていた私の
考えを一掃するのに、充分な出来事だったのです。
何も感じずにいた私の心が、堰を切ったように流れ出します。
これ以上、欺いてはいけない。
そう私は感じるようになっていたのです。
あなたのその信頼が、私に刃で胸をえぐるように突き刺すのです。
私自身の判断が過ちを招くとしても、どうしてもこの想いを抱え切れず、ありのままを告白しようと
決意したのです。
棟梁の命を受けていたとはいえ、私を信じ切ってくださったあなたを裏切る行為を続けていたのですから
お叱りをいただいて当然だと、一人覚悟を定めておりました。
もし、あなたのお怒りが解けずとも、それは仕方ないのですから、とにもかくにも罰していただこうと
御前に参りました。
「どうしたんですか？ 頼忠さん そんな思いつめた顔をして そんなかしこまらずに座ってよ」
と、あなたは御廉をかきあげて、お出ましになられ私の目の前に座られました。
愛らしい顔立ちを隠しもせず、ありのままで私と向かいあってくださいます。
心臓が早鐘のように鳴り響くのは、これであなたとお目にかかれないかもしれないという予感かも
しれません。
「あなたに黙っていたのですが、棟梁から命じられ、ずっとあなたを監視して、院側に情報を流して
いたのです。いかなる叱責も受けます。どうか、私を罰してください」
私は神子の裁きを待ちました。
「だって、頼忠さんの立場では仕方ないんでしょう？」
屈託のない笑顔を見せられて、あっさりと私をお許しになりました。
「それでは、私の気が収まりません。何卒、お叱りを……」
私の懇願を受けて、あなたはその形のよい唇から言葉を洩らしました。
「ひどいや」
この世界の高貴な女性なら、絶対に従者に見せることのない馴れ馴れしさに、私は面くらいました。
「これじゃあ駄目ですか？」
真っ直ぐに視線を向けられるのは、私に対して、全面の信頼を置いてるという態度を示してるのでしょう。
「いいえ…」
恐ろしいほど寛大な処置に、言葉も出ず呆然としておりましたら、
「なら、もうこのお話は終わりにしましょう」
と、それ以上咎めだてもいたしません。
怨霊を龍神の神子としての力で清めて、院にも帝にも認められ、私ごときが近付けないほど尊きお方に
なってしまったというのに、以前と変わらずあなたは接してくださいます。
それがもったいなくもありがたく、ますます私はこの上なき幸せに、全身が震えます。
この方の為になら、命を捨てられると…
この方こそが、棟梁のいう、たった一人の主なのだと。
この方が望まれるのなら、私の全てを差し出そうと思い決めたのです。
「あっ、そうだ、頼忠さん 紫姫からおやつをもらったんだ。一緒に食べようよ」
と、神子は呟かれると、すっと立ち上がり、軽く足音をたてて御廉の中に入ると、すぐに戻ってこられ
その手には器に盛られた餅団子を持っていたのです。
「甘葛を煮詰めてお餅の上にかけてるんだって。さっきちょっと食べたんだけど美味しかったよ」
と、半分により分けて、私に器を私に差し出しました。
私は狼狽いたしました。
「一緒に食べましょう」
親しげに、神子はおっしゃられるのですが、その行いは、この世界では結婚した男女が初めて
迎える朝に食す儀式なのです。
あなたがいらっしゃる世界では、こういう風習はないのでしょう。
あれば、絶対にそういうことはしないはずです。
その時の私の驚愕ぶりをたやすく想像できるかと、存じます。
「お止しくださいませ。神子殿 それだけは…」
目が眩みます。
なぜ、この方は私に惜しみなく、分け与えてくれるのでしょうか
「とっても美味しいよ、頼忠さん 遠慮なんてしないで。一人で食べるより、頼忠さんと食べる方が
美味しいもの」
食べ物を分かち合うということは、魂までも分かち合うというこの世界の決まりごとを、きっとあなたは
知らないのでしょう。
「いつも、守ってくれてありがとう、頼忠さん」
やはり、私の判断は間違えてしまったようです。
告白をすべきではありませんでした。
あなたはお優しい。
私を気遣って、その餅団子を分けてくださったに過ぎないのに…
なのに…
「み、神子殿」
だけども、あなたを穢すとわかっていながら、私はあなたの申し出を断ることができません。
きっと、あなたは全てが終ったら、天に帰られてしまう。
その時、私は一人残されてしまうでしょう………ならば…いっそ………
自分の浅ましさを重々承知しながらも、あなたを慕わしく思う気持ちが、私を駆り立てました。
そして、私はついに餅団子を神子と食したのです。
痺れるように甘いというのは、こういうことをいうのでしょう。
朦朧としつつも昂ぶる心が熱く、全身を燃やします。
せめて今だけは、この甘美な想いをあなたと分かち合いたい。
そう思うことが、ますます罪を深めることになっても、あなたをお慕いする気持ちを止められないのです
１２日の頼忠さんの誕生日にと、一日で仕上げた文章です。何だか酔っ払った文章なのは、私が
彼に酔っ払ってるせいなのですわ(笑) ですが、頼忠さん 素敵（はぁと）
そうそう、平安時代は、結婚したら餅を一緒に食べるということで、そこからヒントを得まして
この話を書きました。しかし、この世界は平安じゃなくって鎌倉だったっけ？
まあ、どっちにしろ 頼忠さん ラブ〜 花梨ちゃん 可愛い〜とエールを送りたいです。