籠 絡
あるはずだった温もりが、どこにもなかった。
二人結ばれた後、少しまどろんでいた間に、マリナは逃げ出したようだ。
どこか遠くを見やる姿が、自分との情事を後悔しているようで。
確かに、マリナの合意はなかっただろうと言えるだろう。
カンタレラの力で、マリナの身体を手に入れたのだから。
それでも、欲しいと望む心は、自分でもどうしようもなく……
じっと見つめれば、マリナの横顔は、可哀想になるぐらい青ざめていた。
「オレからどうして逃げるんだ？」
「逃げる？」
身体を奪われた恐怖だろうか？ それとも、オレの執着に怖気づいているのか？
マリナの声はか細くて、消え入りそうだ。
「オレが…怖いのか？」
ビクっとして振るわせた身体を反転して、マリナはオレを見つめる。
哀れな獲物にも似た様相で、マリナはその身を晒したままだった。
あの輝くような瞳は曇ったまま、オレを映すばかり。
それが気にいらない。
瞳に映った男は、哀れな道化師なのだから。
お笑いだ………無理やり奪っておきながら……まだマリナの心が欲しいらしい。
こんな状態で、マリナがオレを愛するわけがない。
ミカエリスの男が言った言葉を、今やっと理解した。
（心に魔性を宿すことになるぞ。それでもいいか？）
魔とは、受け入れられない心が、荒れ狂う力。
マリナの心を独占している和矢にも、オレを愛さないマリナにすら、
この魔は向かうだろう。
いつかマリナを殺してしまう。そしてオレごと、滅ぼすだろう。
浅ましい想いに愕然とする。
カンタレラを得たことで、満たされるはずだった心は、より深い闇に溺れている。
一つになった瞬間は、オレのものだという確信があったのに、あるのは自分の持て余した熱だけで…
虚しさだけが広がる空間に、目はマリナをそれでも追う。
オレの視線を遮るように、マリナは目を伏せた。
長い睫毛の影に隠れたその瞳は、何を映す？
オレでないことは確かだけれども………。
手に入らない苛立ちが、どこまでもオレを残忍にさせていくようだ。
身体だけが、先走る。
寝台から降りて、マリナを抱きしめる。
その滑らかな肌に吸い込まれるようにオレの手は張り付いて、柔らかな身体を執拗に撫ぜれば、
声にならない声でマリナは鳴いた
「…………っ」
だけども、オレの名前は呼ばれない。
目尻からは、うっすらと涙すら浮かんでいるのに、黙って耐えてるだけだ。
まだ、和矢が心の中にいるのか？
そんなにオレに抱かれるのが嫌なのか？
酷く自分が惨めな気がした……。
プライドもズタズタなのに、それでも、マリナを諦めきれない自分に
嫌悪感を感じながらも、行為自体をやめるという気にはなれない。
この執着を捨て去れば、楽になれるというのに。
夜明け前の薄明かりの中で、マリナの首筋だけが扇情的にオレの視界に入る。
今すぐにも噛み付いて欲しいと強請るようで……オレは歯を立て、マリナの背骨を指でなぞる。
「逃がしはしないよ。マリナ 可哀想だけども…もう君はオレのものだ」
「…シャルル…」
少し冷えたマリナの身体に腕を回せば、熱は自然と発火する。
この熱さで、いっそすべて蕩けてしまえばいい。
マリナの首筋についた赤い痣が、純な白を思わせる肌と対照的に、
鮮やかに映えて、欲情を誘った。
興奮のあまり息が荒くなる。何度も口付けて、マリナを感じて…
どんな些細な動きも逃すつもりはない。もう、離れるつもりもない。
君がいない世界など考えられないのだから…
俺を厭うてもいい。愛さなくてもいい。
傍に………
「それでも愛してる……」
オレの声に反応して、マリナの瞳が開かれる。
その瞳にいたのは、愛を請うばかりの醜いオレ……
真っ直ぐな瞳で、あくまで俺を見続けるマリナ。
オレはオレからも逃げる。
マリナの腰に右腕を廻し、逃れないように羽交い絞めにして、左手でベッドのシーツを手繰り寄せ、
それを口元まで寄せて、歯でシーツを引きちぎり、手ごろな布を作る。
その布はマリナの視界を奪う道具。
細くちぎった布を緩やかにマリナの顔に巻きつけて…両手首すら拘束して。
「やめて、シャルル……」
懇願するマリナの声を無視する。
「こうでもしないと逃げるだろう？」
床に押し倒して、柔らかな肌を貪る。
「あんたがあんたじゃないみたい…」
口から漏れるマリナの声は非難めいていた。
当たり前だ。
「ああ…狂ったのかもしれないね…まだ抱き足りないんだから…少し黙って」
言葉を発しようとするマリナの口を塞ぐ。
愛を語らない口は、うるさいだけ。
弾力のある下唇を舌で突付けば、マリナの戸惑いが伝わる。
躊躇している舌を追い詰めて、ゆっくりと煽る。
官能を誘うように、舌を絡めて……その中でオレは容赦はしない。
取り込もうかのごとく、深く貪る。その唾液ですら飲み干して…
暴虐と呼ばれようと、かまわない。何もかも物足りないのだから……
想いが受け入れなければ、滅びるのは俺のはずだった。
でも、壊しているのはマリナで……オレを受け入れないマリナを、暴力という形で蹂躙している。
薄く浮かび上がる白い首筋に、歯形を付けて……噛み付いた。
脈打つ血管から、血が吹き出る。
そう、人体に差異はない。
なのに、オレの身体はマリナにだけ反応する。
マリナにだけ………
「この瞬間だけは、オレのものだ……」
口に広がるのは、錆びた味。
流れ出した血が、背筋を彩る。
「い、痛い……」
捻って這いながら逃げるマリナを押さえつけ、後ろからあらゆるところにキスをする。
バックスタイルのマリナにかぶさって、胸のふくらみを揉む。
「あぁ…」
仰け反るマリナは、どうしてこんなにもオレを魅せるのだろう。
その内で感じていたくて…溢れる気持ちが何なのか……言葉には出来ない。
こういう感情をマリナによって思い知らされた。
どこまで自分はエゴイストになるんだろうか。
マリナの身体を得たゆえに目覚めた欲が、より凶暴にマリナを襲う。
一生恨まれるだろう…
そしてオレはマリナを失うだろう……
なのに、止まれない。
愛というオブラートで誤魔化すつもりはない。
だから、抱く。男として……
耳元で囁く言葉は何もない。
可愛らしい形の耳たぶには言葉よりもキス。
耳たぶはマリナの弱点。くすぐったいのか小刻みに震えた身体。
マリナの動きを、冷徹に見据えるのは、ある意味サディスト。
エゴイストとどちらがましだろう？
マリナにとっては…どちらも嫌か……
乾いた笑いが起きそうになる。
大事にしたいのに、大事にできない。
マリナはモノではないのに。
流れる血と平行するように、指先は上から下へ…
柔肌はオレの指先すら溶かしそうだ。
目指すのは…艶やかな……花の中心。
そこは温かくて……深い闇の穴。
「ちょっ…シャルル」
薄紅色にマリナの肌が染まっていく。
それと同時に、育っている芽を愛撫するのも忘れない。
ラブジュースが指に絡みつく。
マリナを染め上げていくのは、オレ自身ということが、己を昂ぶらせる。
心は得られないのなら、身体でもという刹那さが、オレの獣性をより一層際立たせるのかもしれない。
逃げ場を無くしたマリナは、身体の下に組み敷かれたままだ。
マリナの頭に巻きついたシーツは、オレの愚かさや醜さをマリナから隠す。
だからこそ、オレは大胆になる。
うつ伏せになってるマリナに手をまわして、こちらに向かせる。
「ほら、君の蜜だ」
指を抜いて、マリナに含ませる。
「この蜜に…オレは酔う……」
マリナの舌がオレの指に絡み付いて……
とてつもなくこの図は淫靡だ。
そして目に飛び込むのは、マリナの乳首。
薄紅より少し濃い胸の頂に、オレは口を寄せる。
それをキャンディを舐めるように舌で転がせば、キャンディ以上の甘さを醸し出した。
夢中で貪るのは、オレが飢えてるせい。
洩れる声すら、とろけるほど甘い。
すべてが、砂糖菓子のようだ。
舌で舐めあげた部分はテラテラと淫靡に光る。
ナメクジですら、こんな跡はつけないだろう。
段々とマリナの息が荒くなる。
降りかかる吐息は、空気でオレを撫で回してるかのような錯覚を起こさせる。
オレの指からマリナの唇が外れて、マリナが口を開いた。
「布を外して。あんたを見せて…」
「嫌だ…」
即座にオレは拒否をする。
マリナの瞳を見たくはなかった。暴かれてしまう。
「何でそんなに苦しんでいるの？」
拘束されたマリナの両手首が宙を舞う。
オレの顎にマリナの指が当たった。
それを取っ掛かりにして、マリナの手のひらがオレの顔を包む。
今までに受けたことのない優しさが、指先から伝わって。
「シャルル…」
「言いたくない」
マリナ……これ以上オレを追い詰めないでくれ……
オレは……こんなにも…卑怯だ……
「お願い、あんたの顔を見たいわ。こんなのは嫌よ…」
か細い声でマリナは懇願する。
目につくのは、オレがつけた歯型の跡。
付けた傷跡に、オレは少々の後悔を感じて……
でも、釘を刺すのは忘れない。
「逃げない？」
オレはオレを持て余している。
マリナを食い尽くすぐらいに。
「逃げないわ」
揺るぎのない声でマリナは言う。
その声に導かれて、オレは恐る恐る拘束していた布を外していく。
「傷つかないで…シャルル…私はここよ……」
オレの首にマリナの手が回る。
マリナの顔が近づいて……
「あたしが怖がっていたのは…あんたじゃないわ…あたしなの…」
唇に唇が触れた。
「だから責めないで」
初めて…抱かれているような感じがした。
「シャルル…今までごめんね。あたし…傲慢だった。ここまであんたを追い詰めてしまったんだね。
ちょっと…戸惑ったけど…怖いけど……あんたから逃げないから……」
マリナからのキスが、恥らうようにオレを見る潤んだ瞳が、密着した肌が、オレを惑わせる。
「本当？」
「もう迷わないわ…」
眩暈がする。
決して上品とは言えない水音や卑猥な音が、部屋に響く。
刺激が五感をより一層オレを高みに連れて行く。
マリナの中心に咲く花に、集るオレ。
その花芯に侵入したのに、飲み込まれていく。
その奥は深くて……
…視覚、聴覚、嗅覚、触感や味覚を司る器官を奪われて、オレは侵食されて……。
マリナの姿はいじらしい。声は可愛い。肌から匂いたつ汗の匂いは男を掻き立てさせて、
触れれば電流が走るごとく、肌を舐めればどこまでも甘い。
与えているつもりでいても、オレは…マリナの内に入りたいのだ。
そして包まれてたいのだ。
オレが支配していたつもりだったけど……違う…
絡めとられたのは、オレ。
久々の偽者なシャル×マリな気がいたします（笑） もうシャルマリ２年ぐらい書いてないダメ管理人だし、
シャルルが鬼畜テイストですんません。強姦だし、しかもこれＳＭですよ。お嬢さん。（みのもんた風）
ドンビキされるのは確実だったんで、一応警告入れときました。
正直、チューやセックスに至る心理描写って、人それぞれじゃないですか〜
で、正直、私の想像するシャルルは狂気孕んでますんで、これぐらいは当たり前田のクラッカーだと思うのです。
相手のマリナちゃんは大変だよなぁとシミジミ。
（例えが古過ぎ……わかる人私と同年代（笑）ですよ）
でも、引かれるのはやっぱり耐えられないのです。（ってもう思いっきり引かれてるでしょうが…）
まあ、書いた本人がもう壊れているので、そっとしてやってください。 でも、激烈満足（笑）
自己満足自慰小説ここにアリって感じですな。 結構直接的なこと言ってるし（笑）マジで当社比２倍のエロさですな（笑）
でも、こんなエロエロ魔人でよければ、話してやって………チャットででも…
相変わらず偽者度が高いですが、ちと、大真面目に考えますと、シャルルとマリナの想いって違うんですよね。
シャルルは愛してるという、マリナは好きという。
捕食者とＮｕｉｔでは、二人の考えの違いをクローズアップしましたが、今回のテーマは違います。
この二人がどうやったら、接点を持てるか？ これ一点のみです。
そしてもっと身体よりの視点であります。 身体から始まって、溶け合って、一体を求めてみたかったのですよ。
でも、なかなか文章にするのは難しいですね。
あ、そうそう、タイトルの籠絡なのですが、私の感覚で決めました。
籠絡を辞書で調べましたら、巧みに手なずけて、自分の思いどおりに操ることなのですが、
私はどちらかといえば籠もって絡むという風に捕らえております。まあ、ぶっちゃけ引きこもって、やりまくりな二人ということで……
若いからできることでしょうね（笑）
Ｎuit
捕食者同様、籠絡と対になるようなマリナバージョンいつか書きたいと思います。
私のことですからいつになるかは謎ですがね。
あ、この文章を書いてるときに、ＩｃｅｍａｎのＬＯＳＴ ＣＯＭＰＬＥＸと八番目の罪をエンドレスで聞いてました。
イメージ的にスピード感あふれる切なさが欲しかったのですが、これを満たすのはＩcemanしか思い浮かびませんでした。
浅倉大介はやっぱり天才だよなぁ……実質解散が…泣ける。