今宵もパリの社交界ではパーティを催されていた。有名人が数々集まる今夜の会場で、
一番注目を集めているのは、ブランシュという愛らしい女性。
ブランシュの語源は輝くという意味。その名の通り輝くような笑顔の持ち主だった。
先月デビューし、このひと月の間に受けたプロポーズの数は片手を上回ると噂されている。

「ブランシュ、君はほんとうに人をやさしくする才能があるね。華やかだがきびしいこの世界を、
その笑顔でふんわり包んでしまっている。」
「おやおや、ブランシュ。若い者はみんな君に夢中だ。わたしももう少しわかければ君に求愛しただろう。
残念だよ、ハハハ。」
ブランシュのまわりを老若まざった男性が取り囲んでいる。

ブランシュはその誰もに笑顔でこたえながら、さりげなく会場を見回していた。

そして人に囲まれながら、グラスを交わしつつ談じている美しい青年をとらえた。
彼の名はシャルル・ドゥ・アルディ。その顔は天使のように美しかった。この大きな会場にいても、
緊張しているようでもなく、場馴れしたような尊大な態度をとるわけでもなく、自然に呼吸している。
ブランシュは彼のことをよく知っていた。よく新聞や雑誌の紙面を飾っている。
クールプリンスと評されている。才能に溢れ、生まれ育ちもよく、全てをもっている人と。
確かに実物の彼は血が通っているのかと思うほど透きとおっている。
誰もが笑顔で過ごしているこの会場で、彫刻のように冷静な表情でいる。

彼を見ていたら、目があった。しかし次の瞬間には、シャルルの目線は
、何ごともなかったように静かに他の人へ移っていった。その反応にブランシュは驚いた。
わたしと目が合ったのに、すっと逸らせて終わり？
そんな反応を、デビューしてからこの一ヵ月の間されたことがなかった。
みんな笑顔で応えてくれて、すっと傍に寄ってきてくれたのに。

まあ、さすが年季の入った有名人はちがうのね。
自分を取巻いている人々と如才のない会話をかわしながら、ブランシュは思っていた。
しかし、時間が経つにつれて、なぜか気分が少しイライラしたものにかわっていた。
シャルルは、わたしのこと笑うしか能のないばかだと思ってるんじゃないかしら。
ううん、それどころか、もしかしてわたしのことがまったく眼中に入ってない？
まさか？それにしてもどうしてこんなに気になるのかしら。

「気分が悪そうだけど、大丈夫？」
青年のひとりが聞いてきた。気分が悪そう？動揺している自分にブランシュは驚き、
急いで笑顔を取り繕った。
「ちょっと疲れちゃったみたい。涼んでくるわ。」
そして、人波を離れて、会場となっている邸の一番奥のバルコニーに避難した。

そこは表の庭がわずかに斜めに見えるくらいの静かな隠れ場所。ブランシュはバルコニーの柵に肘をかけて
、裏庭を眺めながら考えていた。
わたし、まさか、シャルル・ドゥ・アルディが気になっている？有名人としてではなく？
一瞬目があっただけなのに？あんな冷たそうな人なのに？
その時、会場から離れていくシャルルを見つけた。心臓が鳴った。落ち着いて、
彼からは私は見えない。そう自分に言い聞かせて、視線で彼を追った。
VIP用の特別出口として作られた裏から出て行くようだ。
ちょうど今ブランシュがいる場所の真下になっている。
車が彼に寄って来た。

そのとき、ブランシュは、さっきは激しく鳴った心臓が今度は止まるのではないかと思った。
シャルルが車に向かって微笑んだのだ。夜の闇の中、会場からわずかにもれる光で、
ブランシュには確かに彼の笑顔が見えた。
後部座席のドアが中から開いた。中からドアが開くということはそこに人が乗っているということだ。
迎えにきた人その人が、運転手が降りるのを待たずにドアをあけたのだ。
開いたドアの隙間から見えたのは女の人だった。とても小さな人。茶色い髪の外国人。
シャルルが大きくドアを開いて屈み、その人の頬にキスをした。
彼女の顔が真っ赤になってバルコニーまで聞こえる声で叫んだ。
「運転手さんがいるじゃないの！」
シャルルがまた彼女に唇を近づけて囁いた。その声は聞こえなかったけれど、
乗り込んだ彼のプラチナブロンドの髪はやさしく揺れていて、そして静かにドアは閉まった。

わずか一分にも満たない時間の出来事だった。あとに残ったのは呆然としたブランシュ。

なんて優しそうな顔だったの？さっきの会場の冷たい顔の人と同じ人なの？星みたいな目だった。
きらきらと喜びが溢れている目だった。あの女性が迎えにきたから？
シャルルに恋人がいるという噂はきいたことはない。でも、恋人じゃないわけがない。

あんなに温かい笑顔をブランシュは見たことがなかった。
自分にプロポーズした青年たちの誰ひとりとして、あんなに心から喜んでいる瞳で見てくれた人は
いなかった。
「シャルル・ドゥ・アルディ」
ブランシュは彼の名前のそっとつぶやいた。
完全に彼に恋をしたことに気付いた。そして同時にこの恋が実らないことを理解していた。
あの女性からシャルルが離れるわけがない。

しばらくして、ブランシュは会場に戻った。また、何人もの青年たちが彼女の前に集まる。
「ブランシュ、気分はどう？」
「ええ、もう大丈夫よ。ありがとう。」
ブランシュは、みんなに微笑みかけた。すると、青年たちが息を呑んだ。
「…ねぇ、ブランシュ。君、ほんの数分前よりきれいになったね。」
ブランシュは少しおどろいたけれど、なぜか自然に納得できてにこやかに答えることができたのだった。
「ふふ。うれしいわ。恋をしたからかもしれませんわね。」

KOTOさんから素敵な作品を頂きました。少し物悲しいですが、何せシャルルにはマリナしか
見えないのでしょね(笑)　まあブランシュさんにはブランシュさんのことだけを見てくれる
いいおとこがきっと現れます。またそうなってくれればいいなぁ…

恋をすれば誰しも星になってしまうのかもしれません。
シャルルは、マリナちゃんの前では輝く星に。
マリナちゃんはシャルルを引きたてる宇宙空間かな？

シャルルのマリナを思う心が、一つ一つ空間に星を増やしていくのかもです。

そう感じてしまいました。いつもKOTOさん作品を送ってくださりありがとうございます。
なのにUPが遅れてすいませんでしたm(__)m